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第8回
“Farm to Fork” WHOの食品安全への取り組み

2011/12/02
福島和子(世界保健機関)、江副聡(国連合同エイズ計画)、橘薫子(世界保健機関)

 2011年は、残念ながら食品安全に関する大事件が立て続けに発生した年だった。5月上旬に発生したドイツやフランスを中心とする「腸管出血性大腸菌(EHEC)O104:H4」によるアウトブレイクは、7月末にはロベルト・コッホ研究所からアウトブレイク終息宣言が出されたものの、50名の死者、約4300件の発症例が報告された。

 また、3月には東日本大震災に伴い原子力発電所事故が発生。食品の放射性物質汚染について、日本国内のみならず、周辺の諸外国(特に太平洋沖の水産国)や輸入国から、不安の声がWHOに多く寄せられた。そのほか、影響は限定的だったが、5月には清涼飲料水への可塑剤(DHEP)の混入事例が報告され、輸入国で回収措置が取られた事例があった。このように、食品安全の問題は、起こした1国だけの話ではなく、多くの国に瞬時に影響を与え得ること、またその解決には国際的・分野横断的な協力が必要だと改めて示された。

 食品安全の問題は、全ての人にとって身近な問題ではあるものの、数あるWHOの事業の中では脚光を浴びる機会が比較的少ないように感じる。しかし、昨年5月の第63回WHO総会において「食品安全に関する決議」が10年ぶりに採択され、2012年の総会に向けて様々な対応をより積極的に進めている。

 そこで今回は、日本の医療関係者に紹介されることが少ないが、日本人の健康を守る上で欠かせない要素である、食品安全に対するWHOの取り組みについて紹介したい。

抗生剤耐性菌封じ込めに向けて
 食品安全の世界では、よく“Farm to Fork”(農場からフォークまで)という言葉が用いられる。これは 農場(一次生産者)から製造者、流通業者、小売業者、消費者に至るまで、全ての関係者が連携して食品の安全性確保に努めることを求める標語だ。WHOの責務は、食品に由来する疾病のリスクを低減し、フードチェーンの最終段階にいる消費者の健康を保護することにある。その目的を達成するために、生産現場に関して知見が深いFAO(国連食糧農業機関)やOIE(国際獣疫事務局)など、他の国際機関とも密接に連携して業務に当たっている。

 折しも、今年4月7日の世界保健デー(World Health Day)のテーマは、 “Antimicrobial resistance: no action today, no cure tomorrow”(抗菌剤耐性:今日行動しなければ、明日の治癒はない)。現在WHOでは関係部局が一丸となって、抗菌剤耐性菌の封じ込めに向けて尽力しているが、食品安全・人畜共通感染症部(Department of Food Safety and Zoonoses: FOS)もその一助を担っている。

 抗菌剤耐性菌の出現は、医療現場だけではなく、家畜の治療や増産を目的とする抗菌剤使用も原因の一つとされている。動物生産の現場で「非常に重要なヒト用抗菌剤(Critically Important Antimicrobials: CIA)」の使用量を減らし、ヒト用医薬品の効能を保持することが急務とされる。WHOはCIAのリストを随時改訂・公開し、各国が家畜管理措置を決める際に、このリストを考慮するよう呼びかけている。それと同時に、統合的なサーベイランスシステムの設計や、途上国の抗菌剤使用のモニタリングの確立など、幅広い取り組みを実践している。

著者プロフィール

ジュネーブの国際機関に勤務する日本人職員が有志で集まり、持ち回りで執筆していきます。なお、本記事内の意見部分は筆者らの個人的見解であり、所属組織の公式見解ではありません。

連載の紹介

ジュネーブ国際機関だより
WHO(世界保健機関)やUNAIDS(国連合同エイズ計画)などスイス・ジュネーブの国際機関で日々議論されている世界の保健医療(グローバルヘルス)の課題を、現地の日本人職員がリアルタイムに日本の医療関係者に伝えます。

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