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アルコール依存には「変化球」で切り込むべし

2013/03/21

 内科医・プライマリケア医が心療に取り組むときに役立つツールであるMAPSOのうち、これまでにMood(うつ症状、希死念慮、躁・軽躁エピソード)、Anxiety(不安の5つのタイプ=G-POPS)、Psychoses(妄想・幻覚を伴う精神病群)について解説してきました。

 今回は続いて、MAPSOのSにあたる「Substance-related disorder(物質関連障害)」について学びます。

 プライマリケアの現場で遭遇する物質関連障害のうちで、最も頻度が高いのはアルコールに関する問題です。そこで、プライマリケアにおけるアルコール依存患者への適切な対応に的を絞ってお話します。


■なぜ、アルコール問題が重要か?

 内科医・プライマリケア医が心療に取り組む際に、アルコール問題が重要となる理由を以下に示します。

プライマリケアの現場でアルコール問題が重要である理由
  1. 日常に深く入りこんだ「薬物(依存物質)」である
  2. 心療に与える「負の影響」が大きい
  3. アルコール問題を発見したら、即座に対策をとる必要がある

 一般の人々はアルコールを飲料や嗜好品と考えていて、「薬物(依存物質)」であるという認識はありません。また、飲酒に関して寛容なわが国の文化も影響して、問題となる飲酒行動やアルコール依存は隠蔽されやすく、アルコール乱用や依存症予備軍まで含めると、莫大な数のアルコール依存者がいます。

 アルコール依存症患者は同時に他の精神科的問題を併存している傾向が高く、反対に精神科的な問題を持つ人には、アルコール依存症の併存率が高いことが分かっています。このため心療の現場では、アルコール問題と遭遇する頻度が非常に高いのです。


■アルコール多飲が精神科治療に及ぼす悪影響

 アルコールを多飲している人に精神科的な治療を施しても、抑うつ気分や不安は改善しません。その理由を以下に述べます。

 アルコールを多飲すると気分は落ち込みます。「あれ? お酒を飲むと人は陽気になるんじゃないの」と意外に思う方もおられるかもしれません。居酒屋で楽しそうに談笑しながら飲酒している人々を見れば、アルコールが気分を落とす物質だとは、にわかに信じられませんね。

 では、「お酒を大量に飲んだ翌朝の気分」を想像してみてください。そう、もちろん気分は「悪い」ですね。アルコールの血中濃度が高い間は、抑圧がとれて解放的な気分を味わえますが、血中からアルコールが消えると気分は落ち込むのです。そこで、あわてて「解放感」を求めてまた飲む。これをくり返していると、気分はどんどんと落ちて行きます。

 また、アルコールは本人の「逃避」を助長します。うつや不安から回復してゆく上で、様々な逃避を克服し、現実の状況と問題に立ち向かう姿勢をとることは、精神科治療の過程において本質的に重要なことです。しかし、アルコールは最も安直な逃避手段であり、アルコールに耽溺している限り、真の精神的な回復に必須である、新たな認知の獲得と自己の成長が得られることはありません。

 患者は、しばしば「お酒を飲むときは、薬を飲まないようにしています」といいます。飲酒と服薬が相入れないことを知っているのは良いのですが、結果的に、お酒を飲むことで服薬アドヒアランスは大きく低下します。かといって無理に服薬を重ねれば、薬物相互作用の結果、ひどい失敗につながります。精神科治療において、飲酒には良いことは一つもありません。


■アルコール依存に気づくための戦略

 アルコール依存を見つけたら「断酒」させます。断酒は、「言うは易く、行うは難しい」ものです。発見しても対策が無いものは、見つけても仕方ありませんが、対策があるのであれば実行しなくてはなりません。具体的な対策の内容については後で述べますが、まずは患者のアルコール問題に気づくための作戦を伝授いたします。

 アルコール依存症は、別名「否認の病い」と呼ばれています。「否認」とは、患者が飲酒の現実を正しく認知できないことです。

 患者は飲酒の話題になると急に寡黙になったり、不機嫌になったりして、自らの飲酒問題を認めようとしません。飲酒の頻度や量に関する問診に対しても、1回の飲酒量について少なめに答えることが多く、全体量としても、実際の飲酒量に比べて少なく申告するのが普通です。

 そこで、日常臨床のなかでアルコール依存症に気づくためには、以下に示すような手順で評価を行うと良いでしょう。

アルコール依存の見つけ方
  1. 飲酒行動に関する質問をする
  2. 飲酒の動機に注目する
  3. 飲める体質かどうかを確認する


■アルコール問題に気づくための質問

MAPSO問診 アルコール依存
  • 「お酒を飲みますか?」
  • 「お酒をとことん飲もうと思えば、どれくらいまで飲めますか?」
  • 「最後にお酒を飲んだのは、いつですか?」
  • 「お酒の量を減らさなければと思ったことはありますか?」

 アルコール依存をスクリーニングするためには、CAGE、KAST、AUDITなどの質問票によるテストが知られていますが、非専門医が日常診療で使うには、いささか煩雑で時間がかかり過ぎます。

著者プロフィール

井出 広幸(信愛クリニック院長)●いでひろゆき氏。1990年群馬大卒。東海大大磯病院内視鏡内科助手などを経て、2003年に信愛クリニックを設立。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。PIPC研究会ファシリテーター。

連載の紹介

内科医だからできるこころの診療
精神疾患を専門としない内科医であっても、精神科的な対応が必要な患者にしばしば遭遇します。そのような患者への対応法を、PIPC(Psychiatryin Primary Care)という教育プログラムに沿って学びましょう。

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