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不安障害(5) 社交不安障害
白衣高血圧を診たら「社交不安障害」を疑え

2012/12/27

 皆さんの中で、学会の口頭発表であがってしまって「心臓はバクバク、頭は真っ白」、自分が何をしゃべっているのか分からなくなってしまった、というご経験のある方はいませんか? あるいは、医局の後輩の結婚式で、お祝いのスピーチを頼まれてしまったけど、本番が近づいて来るにしたがって緊張感が高まり、だんだん憂鬱な気分に陥るというご経験はないでしょうか?

 「あるある」という方は、今回のテーマである「社交不安障害」(Social Anxiety Disorder;SAD)の傾向をお持ちです。また、皆さんが診察室でよく遭遇する「白衣高血圧」のほとんどは、SADの症状として説明できることをご存じでしょうか? 今回は、不安障害の5つのタイプ「G-POPS」の最後となるSADについて学びます。


■「自分が目立ってしまうこと」が怖い

 人前に出ると強い不安を感じるために、日常生活に著しい支障をきたす疾患がSADです。SADを分かりやすくいえば、「ひどいあがり症」のことです。従来の「赤面症・視線恐怖・対人緊張症」などもSADに相当します。

 人前に出ると緊張してしまう、あるいは人前で失敗したらどうしようと心配になることは、多かれ少なかれ誰にでもあります。しかし、その状況を回避するために日常生活に大きな支障が生じる場合にSADと診断されます。

 不安障害の5つのタイプ(G-POPS)の全てについて言えることですが、日常生活に直接影響を与えるのは、「不安そのものよりも、それを回避しようとする行動」です。そして、不安が身体症状(汗をかく、手が震える、動悸がする、他人の目を見たり、他人と話ができないなど)として現れることが多いのも、SADに限らず全ての不安障害に共通します。

 SADの患者が、どのような状況を怖れるのかは人によって異なります。とにかく、人に見られている全ての場面で強い不安を感じる人もいれば、ある特定の状況(例えばスピーチ)だけが怖いという人もいます。結婚式などに行きますと、受付で芳名録に名前を書かされます。SADの患者なら、面識のない受付の人に見おろされながら署名するときに、極度に緊張するでしょう。特に手が震えていることを見られ、緊張していることがバレてしまうことが、ひどく恐ろしく感じます。

 あるいは、人がいるところで電話をかけたり、レストランなどで外食をすることに強い緊張を感じるかもしれません。「自分が目立ってしまうこと」が怖いのです。特に緊張するのは、少し知っている人達の前に自分が登場する場面です。「顔と名前を一応知っている」くらいの知り合いが5~6人集まっているグループの面前へ自分が入って行き、彼等が一斉に自分を見る。あるいは、教室のドアを開けて中に入ろうとすると、皆が一斉にこっちを見る。SADの人にとって、そんな場面こそ、世にも怖ろしく、最も避けて通りたいものなのです。


■内科医が診る社交不安障害

 内科医の現場で「白衣高血圧」と判断されるケースのほとんどは、SADの傾向を持ち、一部はDSM-IVの診断基準に照らし合わせてもSADと診断できます。

 「ひどいあがり症」であるSADは、名前を呼ばれて診察室に入るだけでドキドキし、医師や看護師から血圧を測られるところで、その緊張はピークに達するのです。血圧計というのは、「患者の持つ不安を数値化できる道具」だと考えてください。白衣高血圧それ自体は治療の対象となるわけではありませんが、長期間持続すると、持続性高血圧に進展するリスクも高いとされており、決して軽視することはできません。

 一般に「見た目の印象」としてのSADは、以下のようになります。

  1. おとなしくて目立たない地味な服装
  2. 目を合わせず、いつも恥ずかしそうにしている
  3. 自己主張をせず、すぐに「すみません」と謝る

 このような人々は集団への親和性が高く、周囲との軋轢も生じないため、本人がSADで苦しんでいることに周囲は気づかないことも多いのです。

 一方で、一見すると明るく社交的で元気一杯な人なのに、SADを抱えている人も少なくありません。つまり、「いかにもSADがありそうな人」はSADの傾向を持つことが多いですが、そうではない人でも「尋ねてみないと分からない」ということです。


■社交不安障害に気づくための質問

 MAPSO問診では、SADを見逃さないために以下のような質問を行います。

MAPSO問診:不安障害《5》
【社交不安障害(SAD)】
  • 「あなたはひどいあがり症ですか?」

 この質問を投げかけた後に、相手の反応を注視し、非言語的メッセージを読み取ってください。臨床の現場では、時間の制約は極めて厳しいため、短い質問で相手の心理的傾向を読みとらなくてはなりません。

 もしもSADの傾向を持ち、日常に困惑を感じている人であれば、すぐに力強く「はい!」と反応します。逆にごくあっさりと、「それはないですね」と答える人には、それ以上深追いはしません。

 しばらく考えあぐねる人には、「人に見られていると緊張したり、赤面したり、視線恐怖といった感じがありますか?」と尋ねます。「あります」と言う人には。「どんな状況が特に緊張しますか?」と確認しても良いでしょう。

 そして必ず、「近々、何か気になるご予定はありますか?」と尋ねてください。「実は…、来週、結婚式でスピーチを頼まれているのです」というような答えが返ってきた場合は、医師として助けてあげましょう。その方法については治療の項目で述べます。

 誰だって結婚式でのスピーチは緊張します。問題はその程度です。「それ(あがり症)さえなかったらなぁ…、と思いますか?」と患者に尋ねたとき、患者本人が激しく同意する様子から、本人の人生に対する影響の大きさが見えるかもしれません。

 あるいは「もしも結婚式のスピーチをしなければならないとしたら、どうですか?」と聞いてみましょう。患者が過剰な身振りで、「と、とんでもない!」と反応すれば、この問題が患者を本当に困らせていることが読み取れます。このようにPIPCの実践においては、問診を迅速かつコンパクトに行うために、患者の表情・態度・反応を非言語的に読みとることが欠かせません。


■社交不安障害は治る

 SADを自分の「性格」であると勘違いしている患者もいます。また、学生時代はそうでもなかったのに、社会人になってからSADを発症する人もいます。いずれの場合も、患者本人に「それは病気の症状であって、治療によって治るものである」と説明することは、深い意味があります。

 実際の診療では、こんな会話が行われます。

著者プロフィール

井出 広幸(信愛クリニック院長)●いでひろゆき氏。1990年群馬大卒。東海大大磯病院内視鏡内科助手などを経て、2003年に信愛クリニックを設立。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。PIPC研究会ファシリテーター。

連載の紹介

内科医だからできるこころの診療
精神疾患を専門としない内科医であっても、精神科的な対応が必要な患者にしばしば遭遇します。そのような患者への対応法を、PIPC(Psychiatryin Primary Care)という教育プログラムに沿って学びましょう。

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