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不安障害(3) 強迫性障害
「手を洗う」「確認する」「数える」がやめられない

2012/11/08

 前回まで、不安障害の5つのタイプを「G-POPS」として覚えていただきましたが、今回はOに相当する強迫性障害(obsessive compulsive disorder, OCD)について学びましょう。これまでの連載で、不安には「怖れ」と「こだわり」という2つの要素があると説明しましたが、OCDはこれに加えて、「こだわり」が関与する疾患の代表です。


■強迫観念と強迫行為

 公園にある公衆トイレのドアノブを触るときに、汚いのではないかと気になったり、外出するときに自宅のドアの鍵をちゃんとかけたかどうか気になったり、という経験はありませんか。

 トイレのドアノブを触ったからといっても、すぐに感染症で倒れたりしないと分かっているのに、気になってしまう。日常の意識に「こだわり」が侵入してきた瞬間です。これを「強迫観念(obsessions)」と呼びます。さらに、強迫観念を打ち消すために手を洗い続けたとしたら、それが「強迫行為(compulsions)」となります。OCDの診断には、強迫観念あるいは強迫行為のどちらか一方が必須で、80%以上の症例では両方とも認められます。


■Washing、Checking、Counting

 強迫観念には、汚染への恐怖だけでなく、戸締りやガスの元栓の確認、物品が整理整頓されて並んでいないと気が済まない、車の運転をしていて、気が付かないうちに人を轢いてしまったのではないかと不安に苛まれる、など様々な種類があります。ここでは"Washing, Checking, Counting"と覚えてください。

 「Washing」とは、まだ汚れているような気がしてずっと手を洗い続けてしまうことです。「Checking」とは、机の上のモノが少しでも乱雑に置かれていると気になって整理整頓してしまう、あるいは戸締まりやガスの元栓を確認し続けることです。「Counting」とは、書棚に本が何冊あるか何度も数えてしまう、ある種の数字を数えたり計算してしまうといったことです。

 患者の持つ「こだわり」には、実に多様なバリエーションがあるのですが、どれにも共通する重要なポイントは、以下の2点です。

OCD診断のポイント
  • 患者はそのこだわりが不合理であるとわかっているが、気になってしまう。
  • そのために自分や周囲が困惑し、日常生活に影響がでている。


■強迫性障害に気づくための質問

 診察のなかで、細かいことをしつこく確認してくる患者や、小さなことにこだわる患者と出会った場合はOCDを疑います。OCDは高率にその他の精神障害と併存するため、抑うつ気分やOCD以外のタイプの不安症状を持つ患者に出会ったときも、OCDの有無をチェックする必要があります。OCDに気づくためには、日常生活への影響を尋ねた後に、“Washing, Checking, Counting” についての質問を行ってください。

MAPSO問診:不安障害《3》
【強迫性障害(OCD)】
  • 「あなたには、日常生活の妨げになるような考えや儀式がありますか?」
  • 「手の汚れが気になって、ずーっと洗い続けることがありますか?(Washing)」
  • 「ガスの元栓や家の鍵の確認に時間がかかるとか、確認のために、わざわざ駅から戻ってしまうことがありますか?(Checking)」
  • 「何回も、何かを数えないと気が済まないというクセがありますか?(Counting)」


■正常と異常(障害)の違いはあいまいである

 手が汚染されているような気がして、ずっと手を洗い続けてしまうOCDの場合、何分以上手を洗っていたら、それは異常でしょうか? 3分も洗っているとしたら、随分長い手洗いだと思いませんか?

 では、3分の手洗いは日常生活に著しい支障をもたらすでしょうか? 1日に2~3回、3分ずつ洗うだけだとしたら、日常への支障は大きいとはいえません。すなわち3分の手洗いは普通ではないが、障害とはいえないのです。

 一方、もしも1時間以上手を洗い続けたとしたらどうでしょう? 手は荒れて、日常生活は明らかに影響を受けそうですね。これは障害といってよいでしょう。では30分なら? 15分だったら?

著者プロフィール

井出 広幸(信愛クリニック院長)●いでひろゆき氏。1990年群馬大卒。東海大大磯病院内視鏡内科助手などを経て、2003年に信愛クリニックを設立。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。PIPC研究会ファシリテーター。

連載の紹介

内科医だからできるこころの診療
精神疾患を専門としない内科医であっても、精神科的な対応が必要な患者にしばしば遭遇します。そのような患者への対応法を、PIPC(Psychiatryin Primary Care)という教育プログラムに沿って学びましょう。

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