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不安障害(2) パニック障害
過換気を起こす患者の大半はパニック障害です

2012/10/25

 不安障害各論の2回目は、パニック障害(Panic Disorder, PD)の話をします。

 PDと聞いて、大多数の内科医・プライマリケア医は「それって精神科の病気でしょ? 自分の診療には全然関係ないよ」と考えるかもしれません。でも、実際にはみなさまの外来にもPDに悩む患者さんが、とてもたくさん訪れているのです。しかも、その人たちには、「過換気症候群」や「心臓神経症」といった、内科医・プライマリケア医にもなじみ深い病名が付いているだけ。PDとして正しい治療を受けている患者は、まだまだ少ないという問題があります。

 電子教科書「UpToDate」によれば、米国におけるPDの年間有病率は2.7%です。身体不調を訴えて医療機関を受診している一般患者の中のPD有病率はもっと高いはずであり、一般内科の外来を訪れるPD患者は想像以上に多いことを知ってください。

 MAPSO問診をかけてみると、一見何の問題もなく元気に見える人が、実は何年も(時には何十年も)PDの症状に悩んでいたことが分かって、みなさんは驚くことになるでしょう。


■パニック発作と予期不安

 PDと診断するには、以下の2つの症状が必須となります。

1)パニック発作
誘因なく突然発症する、動悸、呼吸困難感、頻脈、過換気、発汗、振戦、口渇、頭のふらつき、頻尿、下痢といった自律神経症状(自律神経の嵐)
2)予期不安
再びパニック発作が起こるのではないかという不安

 わたしたち内科医・プライマリケア医が、救急外来でよくみる過換気発作は、そのほぼ全てがパニック発作です。過換気発作とは、血中のCO2が低下しておこる、息苦しさ・しびれ・めまい・心窩部痛などですが、過換気発作とパニック発作の違いを式で示すと以下のようになります。

パニック発作 = 「自律神経の嵐」+「死の恐怖 and/or 発狂恐怖」

 つまり、パニック発作のほとんどは身体症状(自律神経症状)であり、精神症状はたった2つだけです。交感神経の過緊張状態(自律神経の嵐)に加えて、「死んでしまうかもしれないという恐怖」「アタマがおかしくなってしまうかもしれないという恐怖」のいずれか、または両方を伴うものを、パニック発作と呼びます。

 パニック発作は、PDでない人にも発生します。うつ病や統合失調症だけでなく、「普通の人」がパニック発作を経験することもあります。パニック発作とパニック障害の関係は、前述しましたように、以下のような式で示すことができます。

パニック障害 = くり返すパニック発作 + 予期不安 (または日常生活の支障)

 「また、あのつらいパニック発作を起こしてしまったらどうしよう」という怖れを予期不安といいます。そのために電車に乗れないとか、人混みにいけない、という状況を「広場恐怖(agoraphobia)」といいます。

 「狭い場所がこわいのになぜ広場なの?」と思われるかもしれませんが、それは、"agora"を「広場」と誤訳してしまったからです。Agoraとは、古代ローマ城塞都市の中心部にある、すり鉢状になった場所のことです。東京ドームのグランド部分が狭くなったような状況です。つまり、「逃げ出すことが無理なスペース」という意味です。ですから、広場恐怖とは、「脱出が困難な状況に対する恐怖」であると理解してください。

 パニック発作は、何の前触れや誘因もなく、突然襲ってきます。生きた心地のしない経験は予期不安となって、自分の体性感覚を研ぎ澄まします。少し心拍が早くなっただけでも、「うわ!ドキドキしてる!?」と思ってしまい、余計ドキドキしてきて、またパニック発作が始まってしまう。こんな経験を繰り返しているうちに、電車にも乗れない、自動車や飛行機もダメ、人混みがこわい、スーパーでレジの列に並ぶこともできない、といった具合に、日常生活に強い支障が生じるのがPDという病気なのです。

著者プロフィール

井出 広幸(信愛クリニック院長)●いでひろゆき氏。1990年群馬大卒。東海大大磯病院内視鏡内科助手などを経て、2003年に信愛クリニックを設立。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。PIPC研究会ファシリテーター。

連載の紹介

内科医だからできるこころの診療
精神疾患を専門としない内科医であっても、精神科的な対応が必要な患者にしばしば遭遇します。そのような患者への対応法を、PIPC(Psychiatryin Primary Care)という教育プログラムに沿って学びましょう。

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