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MAPSOの呪文を唱えてみよう
「リストカット痕だらけの女の子」に挑んではいけない

2012/08/23

表1 MAPSOシステム

 今回から、PIPC(Psychiatry In Primary Care)の中核を成す「MAPSOシステム」について、詳しく紹介していきます。

 MAPSOとは、気分障害(Mood disorders)、不安障害(Anxiety disorders)、精神病群(Psychoses)、物質関連障害(Substance-induced disorders)、器質性疾患/その他の障害(Organic or Other disorders)という5大疾患群の頭文字をつなげたもの(表1)であり、内科医/プライマリケア医が出会う頻度の高い疾患のみに的を絞って、複雑な精神科の用語や概念を、非専門医でも覚えやすいように整理配列した診断ツールのことです。

 まずは、わたしが米国でPIPCと初めて出会って衝撃を受けた場面に戻って、MAPSOについての話を始めたいと思います。

■内科医が精神医学を学ぶときの悩み

 医師になって消化器内科医としての修行を始めた当初から、わたしは患者の精神的な側面に大いなる興味を抱いておりました。その後、精神医学に関する書物を読むだけの自学自習では飽き足らず、ついに大学病院の精神科に毎週通って、教授の外来に陪席させてもらい、初診患者の問診をとるという、内科医のレベルを超えた本格的な精神科研修を始めたのです。

 その当時のわたしは、内科でいえば「ハリソン」に相当する、「カプラン」という高名な教科書に準拠した、正統的な精神科問診に取り組んでいました。しかし、このスタイルを実践してみると、確かに患者の心象はよく見えてくるのですが、消化器内科診療の現場にそのまま持ち込むには、いささか重厚すぎるので、どうしたら良いかと困っておりました。

■PIPC創始者シュナイダー先生と出会う

 そんな悩みを抱えながら、ある年の米国内科学会(ACP)に出かけた私の目に、「Psychiatry In Primary Care(PIPC)」というタイトルが飛びこんできたのです。「これだ!」と直感して、そのACP公認の教育セッションに参加したわたしは、PIPCの創始者であるロバート・K・シュナイダー先生と、彼が開発したMAPSOシステムに出会ったのでした。

 ACPにおけるPIPCのセッションは、90分の講義でMAPSOについて学び、続いて模擬患者と面接の練習をするワークショップでした。シュナイダー先生の「内科医であっても、MAPSOを用いれば精神科的アプローチができる!」という強いメッセージと、その背後にある臨床への熱い想いがわたしを刺し貫き、気づいたら私は感動のあまり講義中に泣いていました。

■MAPSOを日本へ持ち帰る

 セッションの終了後、シュナイダー先生に宛てて、わたしのほとばしる思いを長文メールで送りつけたのですが、その時は完全に「無視」されました。しかし翌年も、勇んでACPのミーティングに出かけ、PIPCの教育セッションを受講したところ、再会したシュナイダー先生は、PIPCのスライド全てだけでなく、当時まだ刊行されていなかったPIPCのテキスト本のドラフト原稿を含むすべての資料を、わたしのUSBメモリーに入れて手渡してくれたのです。

 「ヒロ、これをあげるから好きに使いなよ。日本でやりやすいように君が改変すればいい」という、シュナイダー先生の言葉をありがたく受けとめたわたしは、彼が開発したMAPSOを持ち帰って、日本で広めるための活動をさっそく開始しました。

 シュナイダー先生とわたしの運命的な出会いから始まった日本におけるPIPCですが、今日ではPIPCセミナーやPIPCメーリングリストを通じて大きなムーブメントへと発展しています。また、その後にシュナイダー先生がACPから出版されたPIPCのテキストは、PIPC研究会有志により翻訳されて、2009年4月に『ACP内科医のための「こころの診かた」 ここから始める!あなたの心療』(丸善)というタイトルで上梓することができました。

著者プロフィール

井出 広幸(信愛クリニック院長)●いでひろゆき氏。1990年群馬大卒。東海大大磯病院内視鏡内科助手などを経て、2003年に信愛クリニックを設立。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。PIPC研究会ファシリテーター。

連載の紹介

内科医だからできるこころの診療
精神疾患を専門としない内科医であっても、精神科的な対応が必要な患者にしばしば遭遇します。そのような患者への対応法を、PIPC(Psychiatryin Primary Care)という教育プログラムに沿って学びましょう。

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