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「病院 VS 在宅」の争いはやめませんか

2019/02/27
廣橋 猛(永寿総合病院)

 2019年もあっという間に2カ月近くが過ぎ、春がすぐそこまで来ています。

 さて、1年ぶりに「二刀流の緩和ケア医」が復活します。このコラムでは、病院在宅の両方で切れ目なく患者に関わる緩和ケア医が、理想論ではなく現実社会における緩和ケア在宅医療の問題点を論じてきました。

 連載再開の1回目は、二刀流ならではのテーマ。「病院と在宅、どちらがいいの?」という疑問への回答から開始したいと思います。

 在宅の医療者は、病院のことを潜在的に良く思っていない人が多くいるのではないでしょうか。「入院すると寝かされてばかりで、すぐ弱ってしまう。せん妄を起こして抑制されてしまう。終末期なのに点滴ばかりして、かえって苦しくさせている。病院に行くと苦しむから、入院しない方がよい」などなど、いろいろな声が聞かれます。在宅の医療者は、そのような病院での医療がイヤになり在宅で勤務するようになった方が多いという側面もあるのかもしれません。

 一方で、病院の医療者は、在宅医療に関わる人のことを「あの先生は何かあればすぐ病院に送ってくる。ちゃんと診ているのかしら」と同様に負のイメージを持つこともあります。実際は、病院以上によく診てくださる先生もいる一方、週末にはゴルフに行くからと、在宅患者が発熱したというコールに診察に行かないまま、救急車で病院に行くように指示する医師もいます。在宅医療の質も均一ではありません。

 果たして、病院と在宅はどちらがいいのでしょうか。

 ここで、最近経験した2人の患者を紹介します。

 1人目のAさんは70代の男性。肺癌に対する化学療法の効果がなくなり、治療終了となりました。息苦しさが増し、モルヒネの持続皮下注射を要する状況でした。残されている時間は1カ月ないと考えられました。私はAさんと今後の過ごし方について相談をしました。Aさんはもうこれ以上良くならないことを理解され、「自宅に帰って家族と一緒に過ごしたい。家族と机を囲んでご飯が食べたい」と希望されました。

 その希望を家族も理解してくださり、時間が限られていると考えた私は準備を急ぎ、数日で自宅に退院してもらいました。訪問診療は私が引き続き担当することになり、退院した日に、自宅でお会いしたAさんの笑顔を忘れることができません。病院ではゲッソリとつらそうだったAさんが、自宅ではリビングの椅子に座って満面の笑みで迎え入れてくれたのです。

 それからのAさんは、もちろんベッドで寝ている時間が多かったのですが、それでもモルヒネの注射をうまく使用しながら、食事の時間はリビングで家族とともに過ごされました。決して多く食べることはできませんでしたが、家族団らんの時間がそこにはあったのです。そして、当初の予想を覆し、約2カ月もの間、自宅で過ごされ、そのまま自宅にて穏やかに最期を迎えられました。

 これこそが在宅医療の力であり、自宅で過ごしたからこそ、日々の生活や家族との時間がAさんに生きる力を与えてくれたのだと思います。
 

著者プロフィール

廣橋猛(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)●ひろはし たけし氏。2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。

連載の紹介

廣橋猛の「二刀流の緩和ケア医」
東京下町で病棟、在宅と2つの場の緩和医療を実践する「二刀流」の緩和ケア医、廣橋氏が癌医療や終末期医療、在宅ケアの現状や問題点を綴りながら、患者さんが病院から在宅まで安心して過ごせる医療とケアについて考える。本人のオフィシャルサイトはこちら

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