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NHK『クロ現+』も問題にした在宅医療の質

2017/02/28
廣橋 猛(永寿総合病院)

 2月16日、NHKの報道番組『クローズアップ現代+』で「終の棲家で何が? 問われる在宅医療」と題した特集が放送されました。国は「病院から在宅へ」という大号令の下に、在宅医療の推進に取り組んでいますが、果たしてが伴っているだろうかという提言です。これまで、在宅医療はただひたすら素晴らしいというスタンスの報じられ方が多かったのに対して、あえて否定的な投げかけをしたという意味で、画期的な番組だったと感じています。

 故大橋巨泉さんが自宅退院し在宅医療を受けることになったとき、いきなり在宅医から「大橋さん。どこで死にたいですか?」と死ぬ場所ばかり聞かれ、自宅での療養に希望を持っていた巨泉さんや家族は、非常に大きなショックを受けたという振り返りから始まりました。また当連載の記事「巨泉さんモルヒネ報道の悪影響を懸念する」でも記したように、医療用麻薬の不適切な使用により往診医への不信感も高まりました。細かい事情は分かりませんが、この在宅医の対応が適切でなかったのは確かなようです。

 次いで、別患者の遺族の意見として、在宅医が専門分野でない領域について対応が遅れたせいで、認知症に対するケアが十分受けられずに施設入居を余儀なくされた事例や、悪化した褥瘡により下肢を切断しなければいけなかった事例が紹介されました。自信がないにもかかわらず、在宅医が自分で抱え込んでしまったために、残念な結果になってしまったと遺族は悔いておられました。これらは在宅での緩和ケアにおいても実際によくあることで、癌患者が自宅で適切な苦痛緩和策を講じられずに、苦痛に耐えきれなくなり病院へ搬送される、もしくは苦しむように自宅で亡くなったと家族が悔いる……そういったことを少なからず耳にします。

在宅医療の研修をせずに名乗れる在宅医
 これらは、在宅医療を担う医師のスキル不足による問題です。実際に同番組の放送では、ある在宅医の気持ちとして「自宅では医師1人で対応しなければならず不安でたまらない」と表出されていました。在宅医療を担う医師の教育が、絶対的に不足しています。在宅医療は医師免許さえ持っていれば、明日からでも担当することができますが、実際にそんなに甘いものではありません。手術を、これまで切ったことのない内科医がいきなりできますか? 同じことです。在宅医療とは立派に専門性のある領域であり、必要な研修を経て初めて一人前にできるものです。

 放送では司会者がコメンテーターに、医師は在宅医療をどのように研修しているのかと尋ねたところ、コメンテーターは「初期研修では、地域医療実習の中で在宅医療が組み込まれているところもある」という回答でした。しかし真実は、わずか1カ月の地域医療実習で、かつ一部の医療機関で、かつ事実上見学しているだけですよ! この回答こそ、在宅医療の適切な研修がほぼないことを裏付けています。

 最近は若手医師も在宅医療に関心を持ち、将来の生業として考えている医師も増えてきました。とても良いことだと思います。ですが、中には初期研修を終えてわずかな期間で、いきなり在宅医療に飛び込んでくる医師もいます。都市部に増えている在宅医療を専門にするクリニックは、在宅医が不足しているために、そういった若手医師に対しても病院で働くより高額な給与を提示します。その給与が魅力的で在宅医療をしたいという若手医師の声も多く聞かれます。そういった経験の未熟な医師でも在宅医を名乗れますが、果たしてそれで良いのでしょうか。

 もちろん、しっかりした在宅医療研修を行っている施設も少なからずあります。例えば、日本在宅医学会では専門医制度を確立し、準拠する研修プログラムをホームページで公開しています。ここでは、在宅医療に起こり得る様々な病態に対応するスキル、多職種での協働に必要なコミュニケーションばかりではなく、病院での内科研修、緩和ケア研修も必須となっています。こういった研修を経て1人立ちしている在宅医は、本当に素晴らしい医師ばかりです。他にも、家庭医や総合診療医を育成する日本プライマリ・ケア連合学会でも類似した研修制度を行っています。
 

著者プロフィール

廣橋猛(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)●ひろはし たけし氏。2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。

連載の紹介

廣橋猛の「二刀流の緩和ケア医」
東京下町で病棟、在宅と2つの場の緩和医療を実践する「二刀流」の緩和ケア医、廣橋氏が癌医療や終末期医療、在宅ケアの現状や問題点を綴りながら、患者さんが病院から在宅まで安心して過ごせる医療とケアについて考える。本人のオフィシャルサイトはこちら

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