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「精神科病院で人生を終えるということ」に今思うこと(後編)
「透析中の精神疾患は見捨てる」で良いのですか

2018/04/20
東 徹

 昨年3月に、日経メディカル Onlineで連載していたコラム「その死に誰が寄り添うか」をまとめた「精神科病院で人生を終えるということ」という本を出版しました。前編では、この書籍の紹介記事についたコメントから、普段は見えない「精神科単科病院を取り囲む差別」が明確化された、というお話を書きました(精神科単科病院を取り巻く差別の可視化)。

 ちなみに、本を出版した直後の昨年3月、それまで勤めていた精神科単科病院を退職しました。そして4月から総合病院の精神科で勤務しています。それには様々な理由があって、一言で言うと「一身上の都合により」というほかないのですが、大きな理由の一つが、「精神科単科病院で感じた問題点を外から解決できないか、その道を模索したい」というものでした。こう書くと大風呂敷を広げているようで気恥ずかしいのですが、「ちょっと視点を変えてみたくなった」ぐらいの方が身の丈にあった表現かもしれません。

 今回は身の上話のようになりますが、少しお付き合いください。

総合病院から見えた精神科単科病院の姿
 勤務先が変わって最初に感じたのは孤独感でした。これは単純に知っている人がいない、というだけの意味ではありません。というのも、今勤務している病院にはそれまで精神科がなく、私が一から始めるという場所だったのです。以前には精神科医がいたそうなのですが、いなくなって数年経っていました。つまり、精神科について一緒に話し合える人がほぼ誰もいない、ということなのです。とはいえ、臨床心理士の方はおられたので、とてもありがたかったです。特に心理療法が苦手な私にとっては非常に頼りになる存在でした。

 以前勤めていた精神科単科病院では精神科医だけでなく、看護師、薬剤師、PSWなど精神科医療に精通した多くの同僚が協力しあって診療に当たっており、まさにチーム医療でした。それは看護師、薬剤師だけに任せていても重症の方が退院できるぐらいに強力なスタッフでした。この取り組みについては以前、日経メディカルでも紹介させていただいたことがあります(「看護師や薬剤師への不満がきっかけでした」)。

 それが、総合病院に移ってみると精神科のことをよく知っているスタッフが誰もいないのです。というのは実は勘違いで精神科病院の勤務経験があるスタッフがいることは後にだんだんと分かってきたのですが、入職当時は知りませんでした。もちろん、そういう状況を分かった上で入職したのですが、実際に体験してみると予想していたよりも孤独感を感じていることに自分で驚いてしまいました。そこにいるときは当たり前のように感じていたのでしょうが、精神科単科病院というのは精神科診療をするには恵まれた場所なのだと気づきました。まあ、当たり前のことではあるのですが……。

 以前、私は製薬会社の宣伝に疑問を感じてMRと医師の関係を問い直す試みをしていました(『「患者を食い物にする医師」にならないために』)。いろいろ思うところもあってこの活動も中止したのですが、今でもMRとの関係には人一倍うるさい自負はあります。

 にもかかわらず、入職後しばらくは、MRの話を聞くことが多くなっていました。少しでも精神科の話がしたい、と思っていたのでしょう。しばらくは話を聞いていましたが、やはり宣伝ばかりであることに気がついて、個々のMRさんには申し訳なく思いながらも、最近はほとんど会っていません。しかし、開業医など、相談する人が少ない環境では製薬会社、MRに対する印象も違ってくるのだろうということを、身を持って実感しました。

精神科の患者層の違いに当惑
 そして次に気づいたのは、いわゆる患者層の違いでした。精神科単科病院では統合失調症の方が非常に大きな割合を占めています。本で紹介したエピソードもほとんどが統合失調症の方の話でした。しかし、今の病院では統合失調症を診ることはほとんどありません。うつ病や神経症、しかも比較的軽症の方がメインで、統合失調症は本当に数人のみです。それも症状の軽い方ばかりです。おそらく重症の方は当院の外来を受診する前に精神科単科病院を受診されているのでしょう。

著者プロフィール

東徹(いわくら病院[精神科単科病院])●ひがしとおる氏。2006年京都大学医学部卒。高知医療センターでの初期研修を経て、京都大学医学部付属病院、大阪赤十字病院精神神経科に勤務。2012年より現職。

連載の紹介

その死に誰が寄り添うか-精神科単科病院にて
精神科単科病院の「身体合併症病棟」。ここがどのような場所で、どのような人がどう生き、そして死んでいくのか。知られざる実態を、長期入院の末に亡くなった方々の実例を元に、一部改変してご紹介します。
『精神科病院で人生を終えるということ − その死に誰が寄り添うか』好評発売中

 精神科単科病院で身体合併症病棟を担当する著者が精神医療の現状を生々しくつづっていいます。胃瘻造設や延命治療の是非、誤嚥性肺炎への対応、患者家族への説明の難しさなど終末期医療における課題を挙げ、相模原障害者施設殺傷事件に対する私見も示しています。
 精神医療に限らず、高齢者の終末期医療に対する現場の肉声ともいえる内容です。高齢者医療に携わる全ての医療者に一読をお勧めします。(東徹著、日経BP社、3500円+税)

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