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「説明が足りない!」(前編)
食道楽 vs 誤嚥性肺炎

2015/07/01
東徹

 毎回書いていて、いい加減クドイと自分でも思いますので、第1回(「死は希望だ」 )を読んでからお読みくださいとは申しません。ただ、第1回を読むと全体の意図が分かる仕組みになっている、ということだけお伝えすることにします。

 さて、今回は田中さん(仮名、享年78歳男性)のお話です。田中さんは幼少期から精神遅滞がありました。精神遅滞とは、教科書的にいえば「知能が明らかに低いこと、社会生活場面における適応水準が低いこと」となります。この点に関しては共通ですが、精神遅滞の病態というか実情は個人差が非常に大きく、一言では言い表しがたいものがあります。病因もさまざまで分からないことの方が多いですし、もっと言えば、病因など無いともいえます。

謎が多い「知的能力障害」患者の精神疾患合併
 初めから細かい話になって申し訳ありませんが、精神疾患の診断・統計マニュアルの「DSM-IV-TR」までは日本語で「精神遅滞」と呼んでいた群は、最近更新された「DSM-5」では「知的能力障害」と呼ぶことになったようです。以前から日常用語では知的障害と言われていましたし、実情を表す言葉としてもこちらの方が分かりやすいかもしれません。ということで、このコラムでは今後「知的能力障害」と呼ぶことにさせていただきます(まだしっくりこない…)。

 「知的能力障害」には重症度がおおまかに分類されています。軽症、中等症、重症、最重症です。以前の「精神遅滞」の重症度はIQが1つの基準として呈示されていましたが、「知的能力障害」はIQに左右されず、適応機能によって分類しましょうという方針になっています。

 田中さんの重症度はというと、中等症~重症ぐらいでした。中等症というのは、食事、着替え、排泄、衛生などの身辺処理はできるが、教えるのに時間が掛かって促しが必要という状態で、重症は、日常生活全般に支援を要する状態です。

 僕が担当した頃には、状態として重症となっていましたが、もともとは中等症だったようです。知的能力障害がある方はそれだけでも大変ですが、少なからぬ人に他の精神疾患が合併します。例えば統合失調症であったり、うつ病であったり。そして知的能力障害の方の精神症状は非典型的なものが多いようです。薬物療法があまり効かなかったり、副作用が強く出たり。あるいは、逆に薬剤が不要だったりします。なぜかと言われてもよくは分かりませんが、そもそも統合失調症やうつ病の病因も解明されていないわけですから、さらによく分かっていない知的能力障害が合併したらどうなっているのかは、全く分からないといってもよいぐらいです。そういうわけで、知的能力障害の方の治療は手探りでやっていかなければどうしようもないというところがあります。

著者プロフィール

東徹(いわくら病院[精神科単科病院])●ひがしとおる氏。2006年京都大学医学部卒。高知医療センターでの初期研修を経て、京都大学医学部付属病院、大阪赤十字病院精神神経科に勤務。2012年より現職。

連載の紹介

その死に誰が寄り添うか-精神科単科病院にて
精神科単科病院の「身体合併症病棟」。ここがどのような場所で、どのような人がどう生き、そして死んでいくのか。知られざる実態を、長期入院の末に亡くなった方々の実例を元に、一部改変してご紹介します。
『精神科病院で人生を終えるということ − その死に誰が寄り添うか』好評発売中

 精神科単科病院で身体合併症病棟を担当する著者が精神医療の現状を生々しくつづっていいます。胃瘻造設や延命治療の是非、誤嚥性肺炎への対応、患者家族への説明の難しさなど終末期医療における課題を挙げ、相模原障害者施設殺傷事件に対する私見も示しています。
 精神医療に限らず、高齢者の終末期医療に対する現場の肉声ともいえる内容です。高齢者医療に携わる全ての医療者に一読をお勧めします。(東徹著、日経BP社、3500円+税)

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