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死してなお枕元に立つ(前編)
「ぞーきん、ぞーきん!!」

2015/04/13
東徹

 毎回書くのもクドいようですが、注意事項ですので必ず一度は第1回(「死は希望だ」)に目を通してからお読みください。今回は享年78歳女性、鈴木さん(仮名)のお話です。

 長期入院というと、何十年も入院されている方を想像されると思います。そういう方も残念ながら大変多いのですが、多くの統計では入院が1年以上の例を長期入院としています。鈴木さんは晩年の7年間入院されました。長期入院の中では短い方(表現がややこしい!)ですが、非常に印象深い方でしたのでご紹介します。

「非定型精神病」は関西地方の“方言”?
 鈴木さんは、若い頃に「非定型精神病」と診断され、入退院を繰り返してきました。冠動脈バイパス術の既往があったため、身体合併症病棟に入院となりました。といっても、術後経過は良好で、特に治療が必要な状況ではありません。このように、身体合併症病棟とはいえ、身体疾患がいつでもactiveなわけではありません。

 「非定型精神病」というのは実は、精神科の診断基準のバイブル的存在のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)やICDには載っていません。主に関西地方以西でのローカルな診断名のようです。僕もいまだに概念がよく分かっていません。典型例、これぞ「非定型精神病」という方に出会ったことがないのです。

 しかし僕の理解している範囲でいうと、統合失調症と双極性障害(躁うつ病)の混ざったものということのようです。このような表現をすると、偉い先生方から怒られるかもしれませんが…あくまで大雑把な定義です。鈴木さんには統合失調症と双極性障害の両方の症状があったということにしておきます。

 さて、鈴木さんは入院の数年前から認知機能の低下があり、認知症と診断されました。統合失調症があって双極性障害もあってさらに認知症も――と診断がてんこ盛りです。これもややこしいところで、なかなか本題に入れないのですが、精神科の紹介も兼ねているので少し説明しておきます。

見分けがつかない統合失調症と認知症
 難しいのは、本当にそれは認知症なのかということです。統合失調症は大昔、早発痴呆と呼ばれた時期がありました。これは、認知症のような状態に早くなってしまう病気という意味です。つまり、統合失調症は長期化して悪化すると認知症と区別がつかなくなることが多いのです。また、うつ病も抑うつ状態が遷延すると意欲の低下が著しくなり、認知機能が低下することはそれほど珍しいことではありません。このような前提がありながら、鈴木さんは認知症と診断されました。

著者プロフィール

東徹(いわくら病院[精神科単科病院])●ひがしとおる氏。2006年京都大学医学部卒。高知医療センターでの初期研修を経て、京都大学医学部付属病院、大阪赤十字病院精神神経科に勤務。2012年より現職。

連載の紹介

その死に誰が寄り添うか-精神科単科病院にて
精神科単科病院の「身体合併症病棟」。ここがどのような場所で、どのような人がどう生き、そして死んでいくのか。知られざる実態を、長期入院の末に亡くなった方々の実例を元に、一部改変してご紹介します。
『精神科病院で人生を終えるということ − その死に誰が寄り添うか』好評発売中

 精神科単科病院で身体合併症病棟を担当する著者が精神医療の現状を生々しくつづっていいます。胃瘻造設や延命治療の是非、誤嚥性肺炎への対応、患者家族への説明の難しさなど終末期医療における課題を挙げ、相模原障害者施設殺傷事件に対する私見も示しています。
 精神医療に限らず、高齢者の終末期医療に対する現場の肉声ともいえる内容です。高齢者医療に携わる全ての医療者に一読をお勧めします。(東徹著、日経BP社、3500円+税)

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