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連載第94回
採血による血腫や神経損傷はどこまで病院の責任?

2008/03/11

[今回の相談事例]
 当院では、健康診断を受けに来る患者さんもいて、血液検査のために看護師が採血することも少なくありません。まれではありますが、採血時に注射針が刺さって神経損傷を起こした、あるいは血液が漏れて血腫ができて神経を圧迫したとして、患者さんが痛みを訴えてくるケースもあります。
 このような場合の病院の責任はどう考えたらよいのでしょうか。特に最近は、神経損傷からカウザルギーになったとか、神経損傷がなくてもRSDになったとして、高額な賠償請求がされるケースもあると聞くので心配です。
(相談者:内科開業医)

[回答]
 採血の際は、終わったらしっかりと指で圧迫して押さえるよう、患者さんにあらかじめ注意を喚起しておく必要があります。異常があれば、よく観察して止血を指導すれば普通は血腫になることはないでしょう。それでも血腫ができ、痛みで通院治療を要したような場合は、過失の有無はさておき、患者さんとよく話し合って、ケースによっては治療費の支払いなどを考慮することが現実的な解決方法かもしれません。

 適切な手技によって採血しても神経が損傷する場合はあり得ます。損傷が皮神経であれば、完全に回避することは不可能な合併症と考えられますので、病院の義務違反とはならないでしょう。正中神経など深い部分の神経が損傷されることは通常はありませんが、正中神経の損傷が認められれば、過失が推定されて賠償責任を負う可能性は高いと思われます。

 ごくまれではありますが、カウザルギー(末梢神経損傷後に起こる強い疼痛)や反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)になると、難治性で症状も重くなりがちです。そのため、訴訟に至るケースも増えますが、過失がなければ責任を負う必要はないのが原則です。ただ、カウザルギーやRSDは発症の機序も解明されておらず、特にRSDは医学的見解の対立もあって診断が難しいのが現状です。遺伝的素因の問題もあるので、裁判所の評価や判断も難しいものになります。

 ご存じのとおり、採血には、動脈血採血、静脈血採血、毛細管血採血があります。動脈血採血は、動脈血培養、血液ガスおよびpHの分析目的で医師により行われます。看護師が扱うのは静脈血採血と毛細管血採血ですが、通常の血液検査で行うのは静脈血採血です。

 採血時に起こり得る合併症としては、(1)血腫、(2)神経損傷、(3)感染症がありますが、注射針の穿刺行為そのものから起こるのが(1)血腫と(2)神経損傷です。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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