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連載第92回
死体検案書に「不詳」と記載したが…

2008/02/19

【今回の相談事例】
 先日、患者が意識不明の状態で搬送されてきて、救命処置を行いましたが、間もなく死亡されました。患者の顔面や頭部には複数の打撲傷がみられ、虐待などによる外因死の可能性も考えられました。しかし、剖検を行っても死亡原因を明確に特定できなかったため、死体検案書には「不詳」と記載して、剖検に立ち会った警察官に交付しました。
 この対応は適切だったのでしょうか? 死亡診断書や死体検案書の書き方について、注意すべき点があったら教えてください。
(相談者:大学病院勤務医)

【回答】
 死亡診断書や死体検案書を巡るトラブルは意外に多くあります。

 一番多いのは、入院経過中に予期せぬ急変により亡くなられた患者について、直接死因の欄に「脳卒中」など、推測に基づく記載をしたことから起こるトラブルです。その死因を前提にした上で医療過誤を指摘する賠償請求がなされ、再度院内で検討したところ、「死亡診断書の記載とは異なる死因ではないか」との結論に至るというケースです。

 このような場合、「後からよくよく考えると死亡診断書の記載は誤りだった」と主張しても、簡単には受け入れてもらえません。患者側としては死亡診断書の記載を前提に主張を組み立てているわけですし、仮にも専門家たる医師が一度は「脳卒中」と診断しているからです。

 また、他院に入院していた患者を紹介され、入院加療を行ったものの数日で死亡されたというような場合、死亡診断書の直接死因の欄に記載した疾病の「発症時期」の記載にも注意が必要です。特段の根拠もなく、かなり以前から発症していたかのように記載されることで、「死因となる疾病を発症していたのに対処していなかった」として、紹介元の医療機関が遺族に訴えられるケースがあります。

 さらに、最近は家庭内暴力や老人・乳幼児への虐待が社会問題となっています。相談事例のように、死体を検案して暴力や虐待が疑われた場合、不用意な死体検案書を作成したがために、遺族などから訴えが提起されることもあります。実際の事例をみてみましょう。

虐待による死亡に「『外因死』と記載しなかった」と提訴
 実際に裁判で問題となった事例として、保育園に通っていた小児が意識不明で病院に運び込まれましたが、救命治療の甲斐なく死亡に至ったというケースがあります。顔面や頭部には打撲傷と思われる皮下出血が多く認められましたが、画像では硬膜下血腫の所見は認められるも、死亡に結びつくような脳浮腫は認められず、解剖でも明確な死亡原因は特定されませんでした。死因の断定が困難ということで、解剖した医師はとりあえず死体検案書に「乳幼児急死症候群の疑い」「病死及び自然死の疑い」と記載して、解剖に立ち会った警察官に交付しました(高松高裁平成18年1月27日判決)。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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