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連載第91回
「リビングウィルを残しておきたい」と頼まれたら

2008/02/12

【今回の相談事例】
 患者さんから「リビングウィルを残しておきたい」という相談を受けました。リビングウィルという言葉自体はよく聞くようになりましたが、実際に作成にかかわるのは初めてです。どのような点に注意して対応すればよいでしょうか。
(公立病院内科医)

【回答】
 意思表示ができない終末期患者にどのような医療を提供するかは、患者の自己決定権や家族の意思とも相まって、難しい問題を含みます。臨床現場では数多く遭遇する上、紛争の種になりかねない問題であるにもかかわらず、明確な判断の枠組みは設けられていません。このような状況で、リビングウィルは、意思表示ができない患者の終末期医療を考える上で重要な役割を果たすことが期待されています。

 重度の低酸素性脳損傷により昏睡状態を脱することができない患者に対し、医師が気管内チューブを抜管し、筋弛緩薬を投与した行為が問題にされた刑事事件の判決が昨年ありました(東京高等裁判所平成19年2月28日判決)。この事件の根底には、意思表示のできない患者に対する終末期医療のあり方、すなわち、患者の自己決定権と医師の治療義務の限界といった問題があると考えられます。

 このようなケースでリビングウィルがあれば、医療スタッフの迷いも減るでしょう。患者のためを思ってした医療行為があだとならないためにも、今後はリビングウィルの有無を確認した上で、終末期医療に当たる必要があるでしょう。

リビングウィルは書面にしておく必要がある
 リビングウィルとは、「自分の終末期において無用な延命医療を拒否する考えを、判断能力のあるうちにあらかじめ文書にしておくこと」などと定義されています1)

 終末期医療における延命治療の判断要素に関しては、「患者の自己決定権」(具体的には終末期にいかなる治療を受けるかについての決定)、「医師の治療義務の限界」の2つの視点が重要と考えられています2,3,4)。リビングウィルには、現在の日本において法的効果は付与されていません。しかし、判断能力を欠く状態の患者が、終末期の無用な延命医療に対していかなる意志を有しているか、すなわち「患者の自己決定権」を判断する際の重要な資料となるのです。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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