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連載第89回
ガイドラインは本当に医師を守ってくれるのか?

2008/01/29

【今回の相談事例】
 私が所属する学会で、このたび診療ガイドラインが作成されることになりました。医療裁判も多く耳にしますが、ガイドラインは裁判上どのように使われるのでしょうか。ガイドラインができれば、医師が訴えられたり、裁判で負けることが少なくなるのでしょうか。
(相談者:病院:勤務医)

【回答】
 裁判で医師の診療が適切だったか否かを判断するためは、鑑定医療文献などの証拠に基づく認定が必要です。しかし、鑑定(裁判所を通して行う正式なもの。医師や患者側が個人的に専門医に依頼して提出する「鑑定意見書」とは異なります)が実施される割合は、現在の民事医療裁判の第一審では17.0%にすぎません(平成19年最高裁判所事務総局発表)。鑑定なしで医療文献によって診療の是非が判断されている医療裁判の方が多いのです。

 そのため、医療文献、特にその中でも、標準治療を記したと考えられているガイドラインは重要といえます。また近年は、医師が刑事事件の対象となることも少なくありません。その場合も、捜査機関が過失の有無を考える際にガイドラインは重視されることになります。

 このようにガイドラインが裁判でも重要な役割を果たすことは、作成する学会も想定し、その文言も慎重に吟味されていることと思います。医師の立場から見ても、判断に迷った場合は、ガイドラインを参照して診療すれば、標準治療に従ったと判断される可能性が高いため、自己の身を守る有益なものと考えられているでしょう。

過失の有無を“お手軽”に判断し得る道具にされる可能性も
 他方、ガイドラインは、治療に納得できない患者および関係者、捜査機関にとっても力強い武器になり得ます(なお、提出された証拠は、医師側と患者側のどちらが提出したかにかかわらず、裁判所はどちら側の有利にも斟酌できます=証拠共通の原則)。

 まず、ガイドラインから外れた治療をした場合、裁判官が「原則として過失あり」という心証を持つ可能性が十分あります。その心証を覆すためには、実際の医療現場ではガイドラインでは割り切れない具体的・個別的な事情もあることを裁判官に分かりやすい形で再現し、客観的にも正しいと分かってもらわなくてはいけません。

 ただ、医師本人や関係者が正しいと言っても「主観的なもの」と受け取られる可能性は高いですし、医師側が専門家の意見書を証拠として提出しても「医者側に味方をした、客観性を欠いた見解」と受け取られる可能性もあります。ガイドライン自体が非常に客観性の高いものと考えられているために、それを逸脱するまでの特別な事情があったのか、厳しい目で判断されることになります。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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