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連載第88回
15年前の誤診で慰謝料を請求された

2008/01/22

【今回の相談事例】
 15年ほど前に当院を受診したという患者さんから、その際の当院の誤診によって精神的苦痛を被ったので、慰謝料を請求するという内容の手紙が届きました。
 15年前の受診の際、検査データに異常があり、診察を担当した医師より特定の疾患の疑いがあると判断され、心配になって、その直後に他の医療機関を受診したところ、全く正常であったと診断されたとのことです。当該の患者さんに関するカルテなどは既に存在していませんし、どのような患者さんなのかも分からず、当惑しています。差し当たって、どのように対応すればよいのでしょうか。
(相談者:総合病院院長)

【回答】
 ご承知のとおり、診療録の保存期間は5年間となっており(医師法24条)、通常、15年前の診療に関する記録は保管されていないでしょう。そのため、ご相談の例のようなクレームについては、その当否の判断や医療行為が適切であったことを立証することは難しいものと考えられます。

 このような場合、患者からの損害賠償請求権について、消滅時効を主張することになります。患者からの損害賠償請求には、不法行為に基づくものと、債務不履行に基づくものがありますので、個別に説明します。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効
 まず、不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が「損害及び加害者を知った時」から3年間行使しないと時効によって消滅します(民法724条前段)。

 この「損害を知った時」とは、損害の程度や数額を具体的に知る必要はありませんが、加害者の行為が違法であり、それによって損害が発生したことを認識した時点を指します。

 また、「加害者を知った時」とは、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度においてこれを知った時」を意味します(最二小判昭和48・11・16)。一般的には、具体的な氏名・住所まで知らなくても、調べれば分かる程度に特定できていれば、これに当たります。

 なお、民法724条はその後段で「不法行為の時から20年を経過したときも同様とする」と定めていますが、これは除斥期間とされています(最一小判平成1・12・21参照)。除斥期間とは、権利行使の期間を限定するものですが、消滅時効と異なり、請求者の認識如何を問わず、一定の期間経過のみによって損害賠償請求権を失うことを意味します。
 
 ご相談の事例ですが、現状では除斥期間は経過していないものの、患者の請求内容からすると、15年前の受診直後に他院で診療を受けたときに、貴院の診療が「誤診」という違法な行為であること、それによって精神的苦痛という損害を受けたことを認識しているものと考えられます。したがって、他院を受診して誤診が判明したときから3年の経過によって、消滅時効期間が過ぎていることになります。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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