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連載第83回
死因説明に遺族が納得しない

2007/12/04

【今回の相談事例】
 下腹部・腰部の不快感と下痢・嘔吐の症状を訴えて救急外来を受診し、急性腸炎と診断されて入院した患者さんが、点滴による抗菌薬投与など救急治療の甲斐なく、急変して死亡しました。担当医はご遺族に対し、入院後の状態、急変から死亡に至る経過などから判断して急性心筋梗塞による死亡であると説明しました。しかし、ご遺族は症状や検査結果などからみて急性心筋梗塞による死亡との説明には納得できないと言っています。
 解剖はまだしておりませんので、正確な死因は不明です。病院としては、どのように対応するべきでしょうか。
(相談者:総合病院院長)

【回答】
 本件患者の死因について、急性心筋梗塞であると判断するに足りる医学上の相応の客観的な裏付け、根拠が存在するのであれば、死因についての説明として特に問題となることはありません。しかし、ご遺族が納得されていないということですので、念のため解剖を勧めるべきでしょう。解剖を拒絶されたとしても、その回答を含めてカルテに記載しておくとよいと考えます。

遺族に対する死因説明義務があるか?
 「遺族に対する死因説明義務があるか否か」という点について、判例は、医療機関側に説明義務があることを一般論としては認めています。

 今回の相談事例と類似するケースである東京高等裁判所1998年2月25日判決(判決1)は、死亡した患者の配偶者及び子ら遺族から求めがある場合、信義則上、医療機関側はこれらの者に対し、患者の死因について適切に説明を行うべき義務を負うこととしています。

 一般に病理解剖が患者の死因解明のための最も直接的かつ有効な手段であることが承認されていることを考慮すれば、具体的な事情のいかんによっては、病理解剖を提案し、その実施を求めるかどうかを遺族に検討する機会を与える。そして、病理解剖の求めがあった場合には、適切な方法で実施し、その結果に基づいて、患者の死因を遺族に説明すべき信義則上の義務を負うべき場合があり得ると、判決1ではしています(ただし、この事例においては死因についての説明義務違反はなく、病理解剖を提案する義務もなかったとしました)。

 また、広島地方裁判所92年12月21日判決(判決2)は、診療した患者が死亡するに至った場合、その経緯・原因について、診療を通じて知り得た事実に基づいて、遺族に対し適切な説明を行うことも、医師の遺族に対する法的な義務であるとしています。説明内容の正確性などについて過度の要求をすることは妥当ではないものの、少なくとも、基礎的な医学上の知識の欠如などの重大な落ち度によって、患者の死亡の経過・原因が誤って説明されたような場合には、この点について医師に不法行為法上の過失があるというべきであり、慰謝料を支払うべき場合もあり得ると指摘しています。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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