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連載第78回
葬儀費用は果たして「損害」か?

2007/10/30

【今回の相談事例】
 当院での手術中、手技上のミスで亡くなった患者さんがいます。幸い当院とは長い付き合いの患者さんで、かなりの高齢であったこともあり、ご遺族(子供2人)とも円満に話し合い、示談で解決できる見込みです。
 そんな折、遺族から、死亡慰謝料や将来得られるはずだった収入(逸失利益)のほかに、葬儀費用が約400万円、香典返しも含めると全部で600万円ほどかかったので、これも補償してほしいと言われました。このような葬儀費用も損害賠償として補償すべきものなのでしょうか。
(相談者:総合病院・副院長[医療安全担当)

【回答】
葬儀費用と損害賠償
 医療事故に限らず、死亡事故が発生すれば遺族は当然、被害に遭った故人の葬儀を行わなければなりません。今回もその費用を遺族から請求されているようです。

 ところで、事故による損害賠償での「損害」とは、その事故によって生じたものでなければなりません。しかし、人は誰でもいつかは亡くなります。事故で亡くなるか、病気で亡くなるか、老衰で亡くなるかによって葬儀をするかどうかが決まるわけではありません。天寿を全うする前に事故で亡くなった場合、せいぜい葬儀の時期が早まっただけとも考えられます。

 こうした見地から、かつては葬儀費用が損害賠償であるかどうかについて法律上の論争がありました。死者の供養はこれを悲しむ者自身が支出してこそ意義があるとの見方から財産的損害ではないとの考え方、葬儀費用の賠償は実質的に慰謝料であるとの考え方、葬儀費用の賠償は加害者に死者への供養を負担させるいわば懲罰的賠償であるとの考え方など、いろいろな説があったようです。

裁判所の葬儀費用に対する考え方
 裁判でも、死亡事故の加害者側が「葬儀費用は損害賠償に含まれない」と主張して争われた裁判があります。古くは大正13年の大審院(現在の最高裁に当たります)の判決です。この裁判で加害者側は、以下のような理由で葬儀費用は損害賠償に該当しないと主張しました。

(1)死亡によって子供が葬儀を営むことは徳義上当然の義務であって、子たる者の務めであるのに、これを損害であるというのはこの徳義上の務めに反する不法である。
(2)親が子供に先立って死ぬことは特別の事情のない限り当然の推定であり、子が親の葬儀を営むことは必然であるから、葬儀費用の支出を損害とは認めることはできない。
(3)死亡時の損害賠償としては、一方で被害者が天寿を全うする想定の下で逸失利益を算定している。天寿を全うすれば当然に子が葬式を営むはずであるのに、他方で葬儀費用を損害と認めるのは矛盾した考え方であり、二重に賠償をさせることになる。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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