日経メディカルのロゴ画像

連載第74回
「家族への説明がなかった」とクレーム

2007/09/25

【今回の相談事例】
 C型肝炎から肝硬変に移行した患者が食道静脈瘤を破裂させて入院となり、家族から「事前に聞いていなかった」とクレームを受けました。
 患者本人とは十年来の付き合いがあり、コミュニケーションも上手く取れており、病状のことなども十分に説明していました。このような場合でも、家族に対しても説明を行う必要があったのでしょうか。
(相談者:内科開業医)

【回答】
 医師の患者に対する説明義務が重要なものであることは、もはや疑いようもないことです。

 義務には、これに対応する権利があります。医師の説明「義務」は患者の説明を受ける「権利」と表裏の関係にあります。そこで、なぜ患者が説明を受ける「権利」を持っているかを考えてみると、その根拠は、一人の尊厳ある人間として、自分のことは自分で考えて自分で決めていくという、患者自身の自己決定権があるからです。

 そして、患者の自己決定が、単に自分で決めたというだけにとどまらず、意味のある決定をしたというためには、自己決定をするために必要かつ十分な情報を持っていることが前提です。十分な情報もなしに為された自己決定は、くじ引きと同じと言っていいでしょう。

 しかし、医療に関して素人である患者は、意味のある自己決定をするために不可欠な情報を十分には持っていません。そのため、患者に対して医療行為(侵襲行為)を実践しようとする医師は十分な情報を提供し、患者の自己決定を意味のあるものにまで高めるよう努める必要があるのです。

説明義務は患者本人に対するもの
 このように、説明義務は基本的に患者本人に対するものです。他方、患者は自らの事柄についてみだりに第三者に明かされないというプライバシー権も持っています。たとえ患者の家族であったとしても、患者の病状を本人の承諾もなく話すことはプライバシー権の侵害となります。その上、医師が診療という業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らした場合には秘密漏示罪(刑法第134条)に該当します。

 従って、「患者本人の承諾なしに、患者の病状などを家族に対して説明してはいけない」というのが法律的な判断となります。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

ケースに学ぶトラブル対策講座
医療事故や医療過誤訴訟のリスクは増大する一方。医療事故や紛争・トラブルの具体例を提示しながら、そこに内包する法律的な問題や対処法について、医療関係者向けに平易かつ簡潔に解説します。

この記事を読んでいる人におすすめ