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連載第64回
違法な薬物使用患者の警察への通報は可能か

2007/07/10

【今回の相談事例】
 私立病院の院長ですが、当院の救急外来に意識混濁で倒れていたという男性患者が救急搬送されてきました。直ちに、担当医が、何らかの薬物による意識障害の疑いがあると判断し、集中治療室で胃の洗浄、血管確保、バルーンカテーテルによる導尿などの処置を行い、さらに導尿バッグの尿から薬物検査を実施したところ、アンフェタミン(フェニルアミノプロパン)の陽性反応が出ました。

 そこで、担当医から院長の私に相談があったのですが、違法な薬物使用は犯罪行為であり、これが強く疑われる場合には警察に通報するべきではないかと思うのです。しかし一方で、医師の守秘義務がありますので、このような場合に警察に通報すべきか迷っています。また、通報しても守秘義務違反の責任を問われないものでしょうか。そのほかに注意すべき点はありますか。
(相談者:私立病院・院長)

【回答】
 まず守秘義務の点について、ご相談のケースでは、覚せい剤取締法違反という重大な薬物犯罪の嫌疑が強く認められま。したがって、医師が、犯罪の検挙や治安維持の公益上の理由から、患者の尿から覚せい剤であるアンフェタミンが検出された旨を警察に通報しても、守秘義務違反とはならないと考えられます。この点について、最高裁判所も「医師が、必要な治療又は検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の成分を検出した場合に、これを捜査機関に通報することは、正当行為として許容されるものであって、医師の守秘義務に違反しないというべきである」と判断しています(2005年7月19日判決)。

 次に、通報すべき義務があるかどうかについては、国公立病院の医師であれば公務員として犯罪を知ったときには告発義務がありますが(刑事訴訟法239条2項)、公務員でない医師には本件のようなケースでは法律上の告発義務まではありません(そもそも、公務員が職務上知り得た秘密については告発義務がないとする見解もあります)。しかし、国民の一人としてまたは条理上、重大な犯罪を認めた場合には犯罪の検挙や治安維持に協力する義務があると解すべきであろうと思いますので、本件のような社会からの撲滅が叫ばれている覚せい剤などの薬物犯罪は通報すべきことになります。

「正当な理由」があれば守秘義務違反に当たらず
 医師は、刑法134条(秘密漏示罪)で、業務上知り得た人の秘密を、正当な理由がないのに漏らしてはならないとされており、個人の秘密についての守秘義務が課せられています。これに違反すれば6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金の刑に処せられる恐れがあります。しかし、正当な理由があれば、患者の秘密を他に告知しても違法性がなくなります(違法性阻却)。問題はどのような場合に正当な理由があるかです。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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