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連載第63回
刑事事件で不起訴処分にされるには

2007/07/03

【今回の相談事例】
 担当した患者の死亡事案が、刑事事件に発展するケースが増えていると聞きます。警察から呼び出しを受けたとき、不起訴処分にされるにはどのように対処すればよいでしょうか。
(相談者:総合病院・外科医)

【回答】
 まず、私が扱った事例の中から、不起訴となった3つの実例を挙げて、警察から呼び出された場合、医師はどう対応すべきかを説明しましょう。

1.刑事告訴されたケース
 内視鏡腸管部分切除術でトロッカーを挿入時に腹部大血管を損傷して開腹術となり、後遺症が残ったケースです。

 民事交渉で歩み寄りが得られず、刑事告訴され、警察はまず手術に立ち会った看護師、麻酔医など周辺から取り調べを開始し、執刀医の取り調べはかなり時間が経過した後になされました。執刀医の取り調べに先立って陳述書を準備し、カルテ(翻訳)、器具の使用説明書、医学文献(解剖など)とともに警察に提出しました。

 警察での取り調べは通常2回以上行われます(1回目は身上関係、2回目以後が本件事故関係)。特に2回目以後の取り調べ(本番)に際しては、警察が問題とする過失に該当する事実(本件ではトロッカーを腹腔内に深く挿入した事実)について、これが過失でないという理論的説明をあらかじめ確認しておくことが必須となります。

 本例では術中ビデオもあり、トロッカーが操作中に腹壁を一気に貫通して腸管から後腹膜内大血管を損傷する様子が映っていました。この時の操作状況を説明しながら、安全に注意しながらトロッカーを操作したものの、予期に反して偶発的に事故が起こった状況を、以下の点を中心に理論的に分かりやすく説明することが求められます。

 まず、腹壁より柔らかく、ブレード(刃先)で容易に切除されるはずの腹膜上脂肪組織が予想以上に伸展性があり、ブレードを安全な方向(ダグラス窩)に深く挿入しても腹膜が伸びるだけで腹膜を貫くことが困難だったこと、さらに角度を変えて挿入を繰り返しているうちにトロッカーの柄を支えている硬い腹壁部が先に破れて、その勢いでトロッカーが腹腔内に深く挿入した結果、事故が発生したという状況の説明です。

 さらに、このような腹膜上脂肪組織が伸びることはあり得るが、その場合でも腹壁(白板、腹筋群など)との硬度の比較からすれば腹壁の方が腹膜・脂肪組織よりもはるかに硬いはずで、たとえブレード先端で腹膜が伸びたとしても、いずれ鋭利なブレード先端は柔らかい脂肪と腹膜を切除するはずであることも解説する必要があります。すなわち、これが切除されるより前にトロッカーの根元(指示部)を支える硬い腹壁が破損するとは、通常考えにくいという理論的説明になります。

 また仮に柄部の腹壁損傷が、ブレードによる腹膜穿刺より先に発生することが稀ながら経験的にあり得るとしても(予見不可能でないとしても)、腹壁外から同じ力をトローカーに加えた場合、鈍的なトロッカーの柄に接する固い腹壁が損傷するよりも、先に鋭利な刃に接する柔らかい腹膜の方が切除されるはずであると、担当医師が予測・期待して操作を継続したことは医師の裁量範囲の行為であるという理論的説明を確認して、取り調べに望みました(無過失論、医師の裁量論の説明)。

 数回の取り調べなどを経て、検察官はこの点を十分に理解した上で、最終的に不起訴処分となりました。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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