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連載第63回
医療版ADRは果たして機能するか

2007/06/26

【今回の相談事例】
 最近ADRという言葉を新聞などで良く耳にしますが、これはどういうものでしょうか。医療分野ではどんな形で導入され、どのような意義があるか、従来の裁判とはどう違うのかを分かりやすく説明してください。
(相談者:私立病院・院長)

【回答】
 ADRとは、「Alternative Dispute Resolution」のアクロニム(各単語の頭文字を合成した造語)です。何の「alternative」かと言えば、裁判所による訴訟手続のalternative(代替的)な紛争解決法ということになります。

 言うまでもなく、民事訴訟は、私人間の紛争解決の最終的な手段です。なぜ訴訟が最終的な解決手段となり得るかというと、民事裁判手続には、(1)被告とされた場合、応訴を強制され(応訴しなければ原告勝訴となってしまうことから、間接的に強制されているといえます)、(2)事実を解明するために不可欠な証人尋問手続があり、証人となることを拒否することはできない(勾引という強制手続まで用意されています)、(3)最終的な判断を下す裁判官がいて、裁判官の知識を補う鑑定制度も用意されており、(4)判決には強制力(執行力)がある――という特徴があります。

 これに対して、ADRには、このような特徴がない代わりに、簡易かつ迅速な解決が得られるというメリットがあるといわれています。ADRに近い手続きとしては、簡易裁判所による調停があり、それ以外にも既に各地の弁護士会が主宰する民事紛争解決センターのような手続きもあります。これらの手続きと、今年4月から施行された、いわゆるADR法によるADRがどう違うかを確認しておく必要があります。

医師なども仲裁・和解を行うことが可能に
 弁護士法72条では、弁護士でない者が仲裁もしくは和解その他の法律事務を取り扱うことを禁じています。この例外として、ADR法によるADRでは、手続実施者が弁護士でない場合、法令の解釈適用に関し専門的知識を必要とするときに弁護士の助言を受けることができるようにするための措置を取ることを前提に、法務大臣の認証を条件として、弁護士以外の者(個人、団体)がADRを主宰できるようにした点に大きな特徴があります。

 ADR法は、司法制度改革の一環として制定された法律ですが、同じく司法制度改革において実現した制度として、専門訴訟への対応があります。その結果、増加する医療訴訟や建築訴訟といった専門訴訟に対応するため、かなり多くの地方裁判所に医療集中部や建築調停部を置くようになり、相当な訴訟促進が図られるようになりました。しかし、依然として、訴訟を提起することに対するハードルはかなり高い上に、医療集中部では、多くの医療訴訟を通じて、裁判官が一定の医療知識を得るという効果は得られるものの、なお、鑑定に頼らざるを得ない面も残っています。このため、弁護士ではない専門家がADRを主宰できることとなった今回の新法を受けて、多くの分野の専門家が弁護士と協力してADRを立ち上げようとしています。

 その一環として、医療事故をめぐる紛争解決のために、医師と弁護士によるADRを立ち上げようとする試みがあり、先日も「医療事故紛争処理機構」の計画が新聞報道されました。機構が派遣する仲介役(メディエーター)を交えて被害者側と医療側が対話することにより、感情的な対立を取り除きながら、「何が起きたか」という事実関係を整理した上で、事故の内容に応じ、その分野に詳しい医師や弁護士を審査委員とする「中立評価パネル」を機構が設置し、因果関係などの評価を加え、賠償案などを提示し、双方が納得をすれば和解に至るという仕組みが紹介されておりました。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

ケースに学ぶトラブル対策講座
医療事故や医療過誤訴訟のリスクは増大する一方。医療事故や紛争・トラブルの具体例を提示しながら、そこに内包する法律的な問題や対処法について、医療関係者向けに平易かつ簡潔に解説します。

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