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連載第62回
検査結果の説明漏れは個人だけの責任にあらず

2007/06/19

【今回の相談事例】
 当院に通院している患者がいつもと違う不調を訴えたので検査をしたところ、癌が見付かったのですが、その後の外来で検査結果の説明をしていませんでした。しかし、半年後にこれに気づき、改めてよく画像を見たところ、だいぶ病期の進んだ癌で、検査後すぐに治療を開始しても完全に治癒できたかどうか分かりません。患者からクレームが来ていますが、どう対応したらいいでしょうか。
(相談者:総合病院・副院長)

【回答】
説明漏れは典型的な医療ミスの一つ
 医療事故を扱っていると、幾つかの「典型的なパターン」に遭遇します。さすがに同じ病院でまた、というケースは滅多にありませんが、同じようなミスをあちこちの病院で見聞きします。その1つが、検査結果の見落とし・説明漏れです。

 一口に「検査結果を患者に説明していない」といっても、その事情は様々です。まず挙げられるのが「見落とし」、つまり画像の読影ミスによりそもそも「異常なし」と判断した場合です。

 それと並んで多いのが、異常所見は確認していたものの、その説明をせずに診察が終わる「説明漏れ」です。(1)検査結果が届いているのに主治医がこれに気付かなかった場合、(2)検査結果のレポートを主治医が読み間違えて「異常なし」と誤解した場合、(3)検査を依頼した医師と、その次の外来で診察した医師が違っていたために検査結果を見落としていた場合、などがよくあるパターンです。次回に検査結果を説明するはずだったのに、診察したのが別な医師で、しかも患者が全く新しい症状を訴えて来院したために、そちらに気を取られて検査結果が見落とされてしまうケースは決して少なくありません。

 さらに、いつも通っている診療科で別の疾患についての疑いを持たれて他科で検査を受け、その後またいつもの診療科に通っていたために、検査を受けた診療科の疾患に関する検査結果が説明されないままになってしまうケースも散見されます。例えば、消化器科に通っていた患者が呼吸器の不調を訴え、呼吸器科で検査をしたところ肺癌が見付かったような場合があります。

 こうした説明漏れは、開業医や個人病院ではなく、規模の大きな総合病院でしばしば遭遇する医療ミスです。ある意味では診療の多様化、医師の専門分化の弊害といえるかもしれません。

個人の力量ではなくシステムでカバー
 説明漏れは、ともすれば医師個人のケアレスミスのように思われがちですが、必ずしもそうではありません。朝から午後まで何十人規模で患者を診る外来診療は、どんな規模の病院でも激務です。医師が患者一人ひとりの検査結果を記憶することは不可能です。問題が起こったときに「うっかり見落とした」「たまたま忘れていた」というレベルで反省を求めるだけでなく、診療体制として説明漏れを防止する工夫がなされるべきものです。最近の電子カルテでは、検査結果を確認するよう注意を喚起する画面が標準的になっています。電子カルテでなくても、目立つマーキングや付せんを診療録に差し込んで注意を促している病院も増えてきました。こうしたシステムとしての取り組みはぜひ行ってほしいと思います。

 また、前述のように受診が複数の診療科にまたがる場合、どちらの診療科が説明をするのかがはっきりしていない病院があります。検査を依頼した科(上記の例でいえば、患者がそれまで通っていた消化器科)で説明をする病院も少なくないようです。確かに患者と信頼関係のある医師が説明すべき場合は多いかもしれません。しかし、より正確な説明という視点でとらえると、現実に検査を実施した診療科(上記の例でいえば呼吸器科)が説明する方が適切な場合もあります。特に同じ病院でありながら、異なる診療科の間でしばしば見られる「よその患者」的な意識が、説明漏れの背景にあることからすれば、検査を実施した以上、責任を持って患者に説明することは重要です。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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