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連載第57回
因果関係の考え方は時代とともに変化

2007/05/15

【今回の相談事例】
 近ごろ、医療裁判の判決では、医療側の行為と患者の死亡などの結果との間に因果関係がないのに、医療側が損害賠償を支払わされているケースがあると聞きます。どういうことなのでしょうか。これは医療側が結果責任を問われていることを意味するのでしょうか。
(相談者:総合病院・外科医)

【回答】
 ご指摘の通り、因果関係がないのに医療側が賠償責任を負うケースもあります。ただし法律上はこれは結果責任とは考えられていません。医療側としては少し分かりにくい部分もあるかと思いますので、最高裁判所の因果関係に対する考え方の変遷を見ながらご説明したいと思います。

1.当初は「因果関係」=「高度の蓋然性」を証明すること
 前提として、医療者の行為にミス(過失)があり、そのミスと例えば患者の死亡や後遺症などの結果(損害)との間に因果関係がなければ、責任を問われることはないとされています。この因果関係の立証も、損害賠償を請求する患者側が行うことになっています。

 しかし、医療に詳しくない患者側が完全な因果関係を証明することは困難です。そこで、民事医療裁判の「因果関係の立証」は、「一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる」とされています(「ルンバール事件」。最高裁1975年10月24日判決)1)。この「高度の蓋然性」とは、その後の判例などからは、そのミスがなかったら治療率や救命率などがおよそ7~8割を上回っていることなどと考えられています2)

【参考】
1)化膿性髄膜炎のため入院していた3歳児が、治療によって軽快状態になっていたのですが、腰椎穿刺の15~20分後に突然に嘔吐、けいれんの発作などを起し、重篤な知能障害、運動障害を残した事案で、医師に過失があったのか、その原因が化膿性髄膜炎の再燃か、ルンバールに起因する脳内出血なのか等が問題になりました。
2)不作為の場合。治癒率・救命率等が「約7割を上回っていること」(東京地裁1993年6月14日判決)、「確率が8割を上回ること」(加藤新太郎裁判官。「NBL」688号66ページ)、原疾患の死亡率が50%以上で、本件患者はさらに死亡率が高いと考えられる場合には因果関係が否定されていること(東京地裁1991年9月30日判決)から。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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