日経メディカルのロゴ画像

連載第55回
入院患者の自殺で病院の責任は問われるか

2007/05/01

【今回の相談事例】
 急性薬物中毒による意識障害で救急搬送されてきた患者に対して、当院で対処せざるを得ず、入院治療を行うことになりました。もし、今回の患者が服薬自殺を図って搬送されてきた方で、当院入院中に自殺をした場合、病院側が責任を問われることはあるのでしょうか。また、どうような点に注意して診療に当たったらいいでしょうか。なお、当院には精神科はなく、精神科疾患に対応できる施設やスタッフはおりません。 
(相談者:私立病院・内科)

【回答】
精神疾患患者の自殺では、病院が責任を問われることも
 入院中の患者が自殺した場合、当該患者の疾病が精神疾患か否かで、様相が異なります。精神疾患以外の入院患者が自殺した場合、特段の精神症状が見られない限り、患者の具体的な自殺行為を事前に予測することはほとんど不可能と考えられますので、病院は責任を問われないのが一般的です。かなり以前の裁判例ですが、医療機関の責任は否定されています(東京地裁1970年3月10日判決)。

 他方、精神疾患の患者が精神病院入院中に自殺した場合、医療機関の責任が問題とされたケースについては、多数の裁判例があります。民事的な責任が認められるケースは、患者の自殺を具体的に予見することが可能な程度の臨床経過がある場合です。例えば、ガス自殺を図って入院中の患者が、外出した際にビルから飛び降りを図ろうとしたケースがあります。その場では取り押さえたものの、不穏・興奮が持続していたことから抑制していましたが、抑制方法が不十分であったため、患者自身が抑制帯を解き、首吊り自殺した事案では、自殺が予見可能であったとして、病院の責任が肯定されています(東京地裁1995年2月17日判決)。

 また、精神科通院中にも包丁による自殺企図行動が見られた患者が、入院を勧められたものの拒否し、その後も自宅で飲酒の上、包丁を持ち出して自殺行為や他害行為をしていたというケースもあります。家族の希望で精神病院の隔離室に入院したものの、「病院から出たい」などと叫び病室の扉を連打するなど、強い不穏・興奮が持続していましたが、投薬のみで対処していました。その後、隔離室内で着用していたTシャツを、のぞき窓の鉄格子に結び、首吊り自殺したため、自殺の危険性は予見可能であり、抑制方法が不十分であったとして、責任が認められています(東京高裁2001年7月19日判決)。

 このように、医療機関の責任が肯定されるのは、精神病院に入院している精神疾患の患者の自殺が中心であり、当該入院前後に頻回の自殺企図が見られたり、自殺念慮の継続、不穏・興奮が強いなど、臨床経過から自殺の具体的危険性が予測し得るケースとなります。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

ケースに学ぶトラブル対策講座
医療事故や医療過誤訴訟のリスクは増大する一方。医療事故や紛争・トラブルの具体例を提示しながら、そこに内包する法律的な問題や対処法について、医療関係者向けに平易かつ簡潔に解説します。

この記事を読んでいる人におすすめ