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連載第49回
弁護士会からの照会に回答すべきか

2007/03/20

【今回の相談事例】
 2年ほど前に交通事故に遭い、頸椎・腰椎の捻挫などで当院に1年半ほど通院治療を継続していた患者の件です。治癒したため診断書を書いて、加害者の損害保険会社に提出したので、示談になって終わったものと思っていました。

 ところが先日、弁護士会から、その患者に関する医療照会が来ました。その患者は、私の医院に通院を始めてから1年くらいして、今度は別の交通事故に遭い、事故現場に近い整形外科医院にも通院していたようです。つまり、半年間ほどは私の方と両方の医院に通院していたことになります。2度目の事故の加害者の損害保険会社(前回とは違う会社)の代理人である弁護士から、最初の事故の医療内容を照会してきたわけです。

 最近は個人情報保護法もあり、このような弁護士会からの照会に対しては、回答義務があるのでしょうか。また全く別件ですが、同業の開業医の友人は、裁判所から文書送付嘱託ということで診療録を送るようにと言われたそうですが、裁判所と弁護士会の要請には、回答義務の有無に違いがあるのでしょうか。
(相談者:整形外科医院院長)

【回答】
 今回の弁護士会からの照会に対しては、回答義務があると考えますが、「個人情報の保護に関する法律」(以下、個人情報保護法)との関係が問題になります。患者本人の同意が得られれば問題はないですが、そうでなければ次に述べるような慎重な判断が必要だと思います。また、裁判所からの文書送付嘱託に対しても同様といえます。

 弁護士会からの照会は、弁護士法23条の2に根拠を有し、個々の弁護士が弁護士会に照会の申し出をして、弁護士会が「公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求める」制度です(なお、この照会は個人を対象としていませんが、ここで言う「団体」の中には、個人であっても1個の組織体として社会的機能を営む診療所も含まれると解されています)。

 この照会に対しては、回答するか否かは任意とする見解もあったのですが、最近の下級審の裁判例では回答する法的義務があるとしています(大阪地裁2006年4月21日判決、同控訴審の大阪高裁2007年1月30日判決)。

弁護士会の照会は個人情報保護法との兼ね合いが問題
 問題は、回答義務があるとしても、個人情報保護法との関係で、照会の内容が個人情報を含む場合に、この回答義務が何らかの制約を受けるのか、あるいは個人情報保護法23条1項で言う、あらかじめ本人の同意を得ないで第三者に個人情報を提供できる「法令に基づく場合」に当たるのかが問題となります。

 ちなみに、前述の大阪地裁と大阪高裁の判決では(個人情報保護法ができる前の事案ですが)、判断が分かれています。大阪高裁の判決では弁護士会からの回答義務は個人情報保護の観点からしても何らの制約も受けず、弁護士法23条の2の規定による照会に対する回答は、正に「法令に基づく場合」に該当するとしています。

 大阪高裁のような考え方であれば、あらかじめ患者本人の同意を得ないで制約なく第三者、つまり弁護士会への個人情報の提供が可能ともいえ、それに伴い本人から損害賠償請求を受ける恐れもなくなります。日弁連も法務省のガイドライン(「法務省が所管する事業を行う事業者等が取り扱う個人情報の保護に関するガイドライン」)を根拠に、弁護士会からの照会も法令に基づく場合に当たると解しています。

 しかし、法務省のガイドラインも、そのただし書きで弁護士法23条の2については「個々の案件において、照会に応じる公共的利益とこれに応じないことにより保護される利益とを比較衡量して、前者が優越する場合に法令に基づく場合の根拠法令に当たる」旨を付記しています。

 一方、厚生労働省のガイドライン(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」)では、「法令に基づく場合」の例として弁護士会からの照会を挙げていません。また、日本医師会が2005年2月に配付した「医療機関における個人情報の保護」という冊子では、弁護士会からの照会については「任意協力を求めるものなので、慎重に対応する必要がある」旨が記載されています。さらに、最高裁1981年4月14日判決では、政令指定都市の区長が弁護士法23条の2に基づく照会に応じて前科などを報告したことは、当時は自治省の通達などで「前科等については前記照会にも回答できない」とされていたため、過失があるとしています。

著者プロフィール

HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介

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