【症例】
70歳男性。自宅庭ではしごに登って作業中、転落し受傷。左側胸部を強打した。歩行は可能であり、自家用車にて近所の2次救急病院を受診した。
診察した当直医は、JATECコース(※1)を受講したばかりの3年目の外科医。高さ 2m 程度からの落下であり、高エネルギー事故(※2)ではない。診察では、左側胸部に打撲痕を認め、同部に圧痛を認めた。
胸部X線写真では骨折線ははっきりしなかったため、追加で胸部CTを撮像したところ、左8、9肋骨骨折が判明した。血胸はほとんど認めず、肺挫傷も認めなかった。バイタルサインも問題なく、呼吸促迫もなかったため、NSAIDsと湿布を処方して、帰宅となった。血尿の有無(※3)はチェックしなかった。
2日後、発熱と呼吸苦を訴えて救急外来を再度受診。呼吸回数は35回/分と促迫しており、SpO2は室内気で90%であった。脈拍数は110/分、血圧は90/50mmHgで、2日前より低下していた。
再度診察に当たった外科医は胸部X線写真をオーダー。できあがった写真では、左肺の液体貯留と浸潤影を認めた。遅発性に発症した血胸・無気肺・肺炎と診断し、入院となった。入院時の問診で、抗血小板薬を内服していることが判明した。
日本外傷診療研究機構(JTCR)が主催する外傷診療の2日間のトレーニングコース。「外傷初期診療ガイドライン」に基づいて標準初期診療手順が実践できるようになることを目標としている。外傷診療に必要な知識と救急処置を、模擬診療を介して学習する。
※2 高エネルギー事故
受傷機転から重症外傷を疑うような事故のこと。たとえば、自動車からの放出、同乗者の死亡、車外救出に20分以上かかった、65km/hr以上での高スピードの自動車事故、高さ6m以上からの墜落事故など。このような事故の場合、救急隊は酸素投与・全脊柱固定など必要最小限の処置のみ行い、迅速に現場を離脱し3次病院へ搬送する。
※3 血尿の有無
下位肋骨骨折では、腹腔内臓器損傷の合併も疑わなければならない。左側であれば、脾損傷・腎損傷、右側であれば、肝損傷・腎損傷の合併を考慮する。いずれにしても、外傷では血尿の有無は必ずチェックすべき。