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第6回
在留外国人が公的保険制度の加入をためらうワケ

2017/06/12
小林米幸(小林国際クリニック院長)

 ある日の夕方、57歳の米国人男性が近くの米軍基地からやってきた。フィリピン人スタッフによると、「クラミジアに感染しているらしいので診てほしい」と言っているという。

 ああ、またかと気持ちが重くなる。医師ならだれでもそうかと思うが、自分があまり得意としない分野の患者を診る、いや正確にいうと診ざるを得ない状況に置かれるのはあまり愉快なことではない。当院にはいわゆる性感染症の治療を目的に患者がやってくることがある。

 いつごろからどのような症状があるのかを尋ねていくと、確かにクラミジア感染症を最初に疑わねばならないと判断できた。しかし、感染のきっかけだったと思われる性的行為からの日数を考えると、血液検査では陽性か陰性かを判断することはできない状況だった。

 確定診断には尿培養が優先されるとは思うのだが、行ったとしても結果が判明するのに1週間近くかかってしまう。手に余ると思い、市内の公立病院にお願いしようとも考えたが、すでに時間は午後。泌尿器科の外来診療の受付時間は過ぎていた。

 患者に「明日にでも午前中に行けないか」と尋ねてみたが、「仕事で午前中は休めない」と言う。それでは……と、近くで開業している仲間に電話しようとして、「英語は苦手だから」と以前断られてしまったことを思い出した。もう、診察せざるを得ない状況だったのだ。

 覚悟を決めて話を進めていくと、さらに新たな問題が浮上した。お金の問題だ。手持ちがあまり多くはないので、できるだけ安くしてほしいらしい。尿培養を行ったとしても結果が手元に届くのに1週間はかかってしまうし、費用がかさむ。

 問題があることは承知の上で、やむをえず、クラミジアに感受性が高いといわれるジスロマック(一般名:アジスロマイシン)を4錠処方し、その場ですぐに内服するように伝えた。

 クラミジアと確定診断する根拠もなく、検査もせず、アジスロマイシン耐性株である可能性も否定できないのに……と、専門家の先生方にはずいぶんといい加減な医療を行っていると思われてしまうだろう。他人にいい加減な奴などと悪く思われるのはいい気分ではないが、その通りだ。それでもいいから治ってくれるといいのだが……。

公的保険に加入「できない」外国人とは?
 この患者のように、日本の公的保険に加入していない外国人にはいくつかのパターンがある。1つは日本の公的保険に法的に「加入できない」人たちだ。

 「社会保険制度」を利用するための要件は、就労可能な在留資格で滞在していて、1週間に働く時間が常勤職員の4分の3以上であることだ。それが確認されれば、日本人同様に加入することが認められている。

 また、留学などの目的により、日本に3カ月以上滞在する資格を有している人は、市町村区自治体の窓口で住民基本台帳に掲載してもらえれば、その時点で国民健康保険に加入することができる。日本は国民皆保険制度であり、外国人であっても公的保険に加入する資格のある人は加入することが義務付けられている。ところが、この義務は「罰則のない義務」なため、事実上は「任意」になっている。

 日本の公的保険に加入できない人々は、これらの人々を除いた人たちだ。

 具体的に言えば、観光客や商用で訪日し、在留資格上では3カ月未満しか滞在できない人。そして、治外法権を有するがゆえに住民基本台帳に記載されない大使館員などの外交官とその家族、米軍の軍属とその家族である。

 これら合法的な滞在に加え、不法滞在になっている人たちも当然、加入することはできない。

著者プロフィール

1974年慶應義塾大学医学部卒。神奈川県大和市立病院外科医長、内視鏡室長、1985年からはインドシナ難民大和定住促進センター嘱託医を兼任。1990年に小林国際クリニックを開設。翌年、在日外国人への医療情報の提供や、日本の医療機関への外国人医療に関する情報提供、診療時の電話通訳を行うAMDA国際医療情報センターを立ち上げ、所長に就任。

連載の紹介

小林米幸の外国人医療奮闘記
日本の常識が通用しない医療——。それが外国人診療です。常識の違いに日々悩みつつも、「困ったときはお互いさま」をモットーに1985年から外国人を診療し続けてきた小林米幸氏が、実際に体感した国による文化や医療の捉え方の違いを紹介します。

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