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第2回
「妊娠は病気じゃないから」と臨月で初受診

2017/04/14
小林米幸(小林国際クリニック院長)

 ある日の夕方、クリニックに訪れた「妊娠7カ月ぐらい」で、今まで産婦人科を受診したことがないというフィリピン人女性。お産をしたいと近くの公立病院の産婦人科を受診したものの、同病院での出産を断られたようだ(「たぶん妊娠7カ月」ってどういうこと?)。

 私はまず、彼女に「なぜ妊娠してから出産近くになるまで、病院の産科を受診しなかったのか?」と尋ねてみた。すると「病気じゃないから」という返事。ああ、そう考えるのねと思った。

 たしかに妊娠は病気ではない。しかし妊娠中の経過は産科でよく診てもらわないといけない。経過によっては母子ともに危険に陥ることがあるためで、こういう事態を避けるために日本では妊娠が確認されると母子手帳の交付を受け、妊娠前期には1カ月に1回、後半は2週間に1回、産婦人科を受診して、健康のチェックを受ける体制が確立されている。

 この仕組みは当然ながら、日本に滞在する外国人にも適用される。日本に在留する外国人が増え、それに伴って外国人も日本人と同様に使える制度は少しずつ増えつつある。しかし、どんなに使える制度が増えたとしても、制度を正しく理解して利用してくれなければ何の意味もなさなくなってしまうのだ。

 健康について無頓着な様子の人たちでも命は命。もしもの時にだれが責任を取るかなどを明確にしなければ、大変な問題に発展するケースもある。

 では医療者はどうすればいいのか?それは「待つ身」をやめることだと僕は捉えている。つまりは「災難」がやってくるのを受け身で待っていてはいけないということだ。

問題が起こる前に定期的に通訳付きで医療制度の解説を
 そこで、当院では市内のフィリピン人のコミュニティ、南米人のコミュニティ、ベトナム人のコミュニティ、タイ人のコミュニティに働きかけて、通訳付きで、妊娠出産、こどもの定期予防接種、特定健診やがん検診、休日夜間急患診療を受け付けている場所と時間などについて、医師会として説明・啓発活動を行うことにした。たとえ参加者が少なくても、コミュニティに情報を投げ込んであげれば、彼らにとって有益な情報はあっという間に広がるはずだからだ。

 このような啓発活動を行うことで、医療機関での外国人患者を巡るトラブルを未然に防ぐ効果も期待できる。要するに危機管理の一種のような取り組みである。

 この取り組みは1カ月に1言語の会を催すこととして4カ月かけて取り組んだ。地域性もあるのかもしれないが、フィリピン人対象の会と南米出身者を対象とした会には出席者が多く40人程度。ベトナム人対象の会とタイ人対象の会は20人程度だったと記憶している。

著者プロフィール

1974年慶應義塾大学医学部卒。神奈川県大和市立病院外科医長、内視鏡室長、1985年からはインドシナ難民大和定住促進センター嘱託医を兼任。1990年に小林国際クリニックを開設。翌年、在日外国人への医療情報の提供や、日本の医療機関への外国人医療に関する情報提供、診療時の電話通訳を行うAMDA国際医療情報センターを立ち上げ、所長に就任。

連載の紹介

小林米幸の外国人医療奮闘記
日本の常識が通用しない医療——。それが外国人診療です。常識の違いに日々悩みつつも、「困ったときはお互いさま」をモットーに1985年から外国人を診療し続けてきた小林米幸氏が、実際に体感した国による文化や医療の捉え方の違いを紹介します。

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