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へき地の家庭医は都市部から生まれる

2012/02/03

 前回の記事で、都市部医療における“隙間”を埋める上でPCMHが重要なキーワードになるということはお分かりいただけたと思います。では、その担い手はどのようにして育てればよいのでしょうか?

 例えば、アメリカの家庭医療研修プログラムでは、Family Health Center(もしくはFamily Medicine Clinic)という外来研修施設を有していることがプログラム認定条件の一つになっています。そこでは、通常の外来診療に加え、カウンセリングなどの心理療法、栄養指導、服薬指導、運動指導、ソーシャルワーカーによる医療相談まで幅広く提供されており、研修医もそれらのケアに密に携わります。これはPCMHの考え方に基づいたプログラムであり、私が院長を務める手稲家庭医療クリニックもこの米国のFamily Health Centerをモデルとしています。

家庭医はへき地だけでは育てられない
 このように、PCMHのトレーニングの上では、様々な医療資源の活用の仕方を学び、そして足りない知識やスキルを地域の医療機関で学ぶことが大切となります。そう考えると、家庭医が働く場としてへき地は非常に魅力的ですが、家庭医の育成においては、都市部での研修も不可欠だと言えるのです。

 これは言わずもがなですが、特定の専門分野の研修は専門医の下で行う方が効率的です。また、専門医による診察・検査から診断の流れ、治療方法の選択基準などを学ぶことは、家庭医としての腕を磨く上で非常に大きな財産となります。つまり、家庭医の訓練においても、医療機関の集積度が高い都市部の方が向いている面があるのです。

 ちなみに、手稲家庭医療クリニックは、地域の基幹病院である手稲渓仁会病院から徒歩10分圏内にあります。研修医たちは午前中にクリニックで自分の外来を行い、午後は病院で専門分野の研修を行うといった形をとっています。普段の自分の診療の中で生じた疑問の解決策を専門医の下で学び、それをすぐに自分の外来で生かす―。こういう流れで効率よく診療能力を伸ばしていける研修環境は、リソースに恵まれた都市部でないとなかなか提供できません。

 前々回の記事で、私が米国留学時代に受けたPractice Management研修において、「日本に帰って研修病院で家庭医療研修プログラムを立ち上げると同時に家庭医療クリニックをオ-プンし、研修医をそこで教育したい」と話したところ、指導医からP4プロジェクトについて教えられたというエピソードを紹介しました。指導医の先生が伝えたかったのは、PCMHをベースにした都市部での研修の重要性だったのです。今から振り返ると、そのことがよく理解できます。

へき地と都市部の家庭医療は相互に支え合う
 さて、これまでは、PCMHが都市部で提供されるべき家庭医療の重要なコンセプトであり、そのための人材育成においては都市部が重要な舞台になるということをお話してきました。では、へき地で働く家庭医はどう育て、どう確保すればいいのでしょうか?

 「家庭医=へき地で働く医師」と捉えている方は多いでしょう。アメリカでもたくさんいました。事実、米国でへき地の医療ニーズを支えているのは家庭医を中心としたプライマリケア医です。下図はRobert Graham Centerによるものですが、赤で示されているのは、地域から家庭医がいなくなったら医療過疎(プライマリケア医が人口3500人に1人以下)になる地域です。どれほどの地域が家庭医に支えられているかが一目瞭然です。家庭医の数は全米の医師数の15%に過ぎませんが、その数でへき地医療の43%の診療を担っているというデータもあります。日本においても、そうした事情はおそらく変わらないでしょう。

著者プロフィール

小嶋 一(手稲家庭医療クリニック院長)●こじま はじめ氏。2000年九大卒。沖縄県立中部病院などを経て03年渡米。ピッツバーグ大学関連病院勤務。米国家庭医療専門医、公衆衛生学修士。08年手稲渓仁会病院。09年より現職。

連載の紹介

【臨床講座】家庭医の作法
どんな時でもまずかかってもらえる医者、それが「家庭医」。住民には心強い存在であり、医師不足対策への処方せんにもなり得ます。本連載では、実例などを盛り込みながら、家庭医の果たすべき役割を考えていきます。

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