日経メディカルのロゴ画像

日本の家庭医はどうやって生き延びていけばいいの?

2011/10/21

 この連載「家庭医の作法」ではこれまで、地域医療において家庭医が果たすべき役割、その役割を果たす上での患者さんとの接し方などをテーマにしてきました。今回は、ちょっと切り口を変えて、日米の比較を交えながら、家庭医としてのライフプランやキャリアプランについて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

家庭医研修終了後、9割がすぐに開業医になる米国
 日本で開業する場合、後期研修を修了した後もある程度の期間を病院勤務医として過ごし、40歳前後で開業するというパターンが多いかと思います。一方、米国では、家庭医療研修が終わった後、9割以上の修了生はすぐに開業医となります。ただ、米国の開業医は、多額の借金を背負って新しくクリニックを“開設する”日本の開業医とは違って、診療所に“勤務する”という感覚のものです。

 米国では1人で新規のクリニックをオープンすることはまれで、通常は、複数医師が勤務するグループ診療(とは言っても通常2~4人の小規模グループ診療が中心です)を行うクリニックに就職します。

 さて、ここで少し想像してみてください。あなたは、米国で家庭医療研修を終えようとしている卒後3年目の医師です。卒業後は、他の医師と同じように開業医になろうと考えています。どのようなクリニックに、どれぐらいの待遇で、どのような勤務条件で働きたいですか? これが、私が米国で受けたPractice Management研修で投げかけられた最初の質問でした。この研修は、家庭医療研修の中のカリキュラムの一つとして設けられているもので、経済面を含めた家庭医としてのライフプランを考える上での基礎知識を教わるものです。

 「どのような生活を送り、どのような仕事をしたいのか。できるだけ具体的に話してみてください」。研修プログラムで最古参の指導医B先生は、こう切り出しました。私は1年目研修医として、同期のイギリス人研修医A君、そして1年先輩でカンザス出身の2年目研修医J君と一緒に、このPractice Management研修を行いました。

「車はピックアップトラックと通勤用のBMWが欲しいです」
 J君は、「私は故郷のカンザスに帰ります。そこで実家からほど近い都市部にあるクリニックに勤務しようと思います。小さなグループで、できれば信頼できる先輩と2人ぐらいの規模で仕事をして、5年ぐらいしたら1人だけの診療を行いたいと思っています。クリニックは普通の外来を行い、縫合とかS状結腸鏡などの簡単な手技程度はやるつもりです。週に2日は基本的には休み、車はピックアップトラックと通勤用のBMWが欲しいです。収入は年15万ドルぐらい欲しいです。子供はあと2人ぐらい欲しい。大家族が理想です。子供を大学にも行かせてあげたい」とスラスラと語ります。私は、「アメリカ人らしい考え方だなあ」と思いながらJ君の話を聞いていました。

 一方、A君は、こう答えました。「イギリスに帰ることは考えていません。研修プログラムで研修医を教えるような仕事をしたいです。週に2回ぐらい自分の外来を持って、外来での研修を中心に教えていきたいと思っています。医学生の教育にも携わりたいです。結婚のことなどは未定ですが、大きな借金もないので当面はのんびりと生活するつもりです。老後はイギリスに戻って暮らすつもりですが、それまではアメリカで仕事をします」

 ちなみに私の回答は…。その内容は次回のネタにするつもりですので、今回は秘密ということにさせてください(笑)。

年に15万ドル稼ぐために、1日何人の患者を診ればいいかを学ぶ
 3人の話を聞いて、指導医のB先生はこう続けました。「J君、年収15万ドル稼ぐためには何人ぐらいの患者さんを診る必要があるかわかりますか?」

 そこからは計算式が出てきます。例えば米国の外来診療は一般に、診療の複雑さ(レベル2なら簡単な湿疹、レベル3なら鑑別疾患もある程度考慮しなくてはならない腹痛、レベル4は詳細な既往歴や社会歴を含めた病歴と身体所見および検査所見を必要とするような診療…など)に応じて診療報酬が決まります。通常の家庭医の外来では、そのほとんどがレベル3になります。

 さて、レベル3の診療報酬が例えば60ドルだとします。その60ドルのうち、医師が手に入れられる収入は、クリニックの経営者との契約によって異なります。契約の相場は大体診療報酬の45~50%、すなわち60ドルのうち30ドルほどが医師の手取りとなるわけです。

「やっぱり車はトヨタに限る!」
 一方、家庭医の標準診療人数は1時間当たり約3人(1人当たり20分)というデータがあるので、家庭医の時給は約90ドルと計算できます。年間15万ドル稼ぐためには月1万2000ドルあまり稼がなくてはならず、ざっと計算すると月間140時間程度働けばいいことになります。

 それだけならさして無理な計画ではないように思えるかもしれません。しかし、外来診療だけではなく、書類仕事や自分の患者が入院した際の病棟業務なども行いますので、月に140時間の外来時間を確保するのは結構難しいことかもしれません。

著者プロフィール

小嶋 一(手稲家庭医療クリニック院長)●こじま はじめ氏。2000年九大卒。沖縄県立中部病院などを経て03年渡米。ピッツバーグ大学関連病院勤務。米国家庭医療専門医、公衆衛生学修士。08年手稲渓仁会病院。09年より現職。

連載の紹介

【臨床講座】家庭医の作法
どんな時でもまずかかってもらえる医者、それが「家庭医」。住民には心強い存在であり、医師不足対策への処方せんにもなり得ます。本連載では、実例などを盛り込みながら、家庭医の果たすべき役割を考えていきます。

この記事を読んでいる人におすすめ