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「わかっちゃいるけどやめられない」のやめさせ方
行動科学―その1

2011/09/12

 医学生時代、アメリカの医師国家試験に相当するUSMLEという試験勉強をしていた頃の話です。基礎医学の中にあるBehavioral Science(行動科学)という科目は、日本では全く学んだことのない分野でした。ユングとかフロイトに始まり、Defense MechanismとかPersonality Disorderなども登場し、「心理学と精神科を合わせたような科目かな」という印象を持ちながら勉強していました。何の役に立つのか半信半疑でしたが、習ったことがない分野なだけに一生懸命勉強した覚えがあります。

 時は流れて米国での家庭医療研修医時代。毎日昼のレクチャーがあるのですが、そのレクチャーのうち約4~5割がこの行動科学に関するものだったのです。レクチャーのお題としては非常に興味深いのですが、私の英語力の問題か、行動科学そのものの理解が足りなかったのか、これらのレクチャーの重要性が理解できるようになったのは卒業の半年ほど前からでした。

 なぜ行動科学が家庭医療の中で重視されるのか? そして、その教育に多くの時間が費やされているのか? 症例を通じて紐解いてみましょう。

◆指導室にて
研修医 57歳男性で、検診で高脂血症を指摘されている方です。以前から何度か指摘されているのですが、今回も指摘されたということで受診されました。総コレステロールが243mg/dL、LDLが167mg/dLで、やや肥満気味です。BMIは25.9でした。血圧は125/76、検診で測定されたHbA1cは5.3と糖尿病はなさそうです。栄養指導と運動指導を行い、3カ月後に再受診にしようと思います。

指導医 動脈硬化のリスクとしては肥満、高脂血症があるけど、優先順位はどうなる?

研修医 えーと、この方はまだ年齢も若いですし…。あ、そういえば喫煙もされています。優先順位はとして最も高いのは禁煙でしょうか?

指導医 この方のモチベーション次第だろうけど、禁煙の優先順位は高そうだね。今日は禁煙指導はしたの?

研修医 いえ、食事や運動・減量のことばかりに気を取られていました。禁煙については次回お話ししてみようと思います。

(3日後…)

研修医 先生、先日の高脂血症の方にお電話して本日再受診していただきました。早速禁煙のことを切り出してみたのですが、まったくやる気がないんです。「禁煙した方が良いのは分かっているけど、やめられないんだ」の一点張りで、こちらがどれだけ禁煙のメリットを説明しても話が前に進みませんでした。どうしたらいいのでしょうか?

著者プロフィール

小嶋 一(手稲家庭医療クリニック院長)●こじま はじめ氏。2000年九大卒。沖縄県立中部病院などを経て03年渡米。ピッツバーグ大学関連病院勤務。米国家庭医療専門医、公衆衛生学修士。08年手稲渓仁会病院。09年より現職。

連載の紹介

【臨床講座】家庭医の作法
どんな時でもまずかかってもらえる医者、それが「家庭医」。住民には心強い存在であり、医師不足対策への処方せんにもなり得ます。本連載では、実例などを盛り込みながら、家庭医の果たすべき役割を考えていきます。

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