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健康教室は「やればいい」というわけではない

2011/08/19

 家庭医が診療を行う現場は、病棟や外来だけではありません。患者の自宅やグループホーム、高齢者住宅などもその一つですし、学校医や産業医、スポーツドクターとして赴く現場もそうです。今回の大震災では、日本プライマリ・ケア連合学会が主体となってPCAT(Primary Care for All Team)という被災地支援プロジェクトを実施していますが、こうしたケースでは被災地も診療の場となるのです。

 また、家庭医の仕事は、診療だけではありません。住民講習会や医師会活動などにおいても、家庭医は活躍が求められています。このように、家庭医の現場は地域全体に広がっており、チャレンジできることも無限にあると感じます。

◆指導室にて

研修医 最近、高血圧と糖尿病で外来に来てくれるようになった82歳の男性なんですが、足腰も弱っていて視力も低下しているのでご家族が訪問診療を希望されています。どうしたらいいでしょうか?

指導医 先日一緒にやったCGAを患者さんのご自宅でやってみようか。ご自宅の状況を教えてくれる?

研修医 はい。Yさんはこれまで札幌から50kmほど離れたS町に住んでいたのですが、昨年、長男の自宅へ移ってこられました。S町では、7年前に奥さんを亡くされてから独居生活だったとのことで、ご長男は前々から「同居しよう」と誘っていたそうですが、なかなか同意してもらえなかったそうです。それが、雪が多かった昨年、「もう一人で雪かきができない」ということで、札幌市の長男宅へ転居されました。現在のお住まいは2階建ての一軒家で、1階の和室で生活されているとのことでした。お嫁さんが一日中家にいて、面倒を見てくれているそうです。

指導医 君も札幌出身だよね。身の周りに、高齢のご両親が札幌に住む子供の家に移ってきたという例はあった?

研修医 そうですね…。札幌は高齢者にとって住みやすい街なのかもしれませんが、僕の周りにそうした例はありませんでした。

指導医 ちなみに、Yさんが以前住まれていたS町の町立病院が、最近医師不在になっていることは知っていますか?

研修医 はい。Yさんも、かかりつけだったS町の町立病院がなくなってしまったことが転居を決めた一つの理由だったとおっしゃっていました。

指導医 それでは、この方の生活の場を見るという意味でも一度ご自宅を訪問して、訪問診療を導入すべきか検討してみよう。あと、実際に開始する場合、ただ漫然と訪問するだけでは不十分。Yさんの状況をきちんと分析し、介入することで、Yさんの足腰をリハビリで強化し、外来通院ができる程度にまでADLを向上させることを一つの目標としてみない? ADLの低下が訪問診療を必要とする原因であるならば、少しでもADLが改善するよう手助けすることが我々の本来の務めだと思うよ。

研修医 分かりました。ご本人、ご家族にもそのようにお話ししておきます。早速、今月中に1度訪問できないかスケジュールの調整をしたいと思います。

指導医 最近、Yさんと同じような相談が増えているね。では、ここで一つ宿題を出すから、来週までに考えてみてくれる?

研修医 何でしょうか?

指導医 この前、「家庭医は、地域の中に直接出ていかなくてはならない」って話をしたよね。例として、講演会や健康教室などを挙げたと思うけど。

研修医 はい。覚えています。

指導医 では、仮にこの地域で講演会や健康教室を開くとして、何をテーマにすればいいと思う?

研修医 えっーと…。

指導医 すぐには思いつかないよね。では、そのテーマを考えるのが今回の宿題。よろしくね。

研修医 はい。

著者プロフィール

小嶋 一(手稲家庭医療クリニック院長)●こじま はじめ氏。2000年九大卒。沖縄県立中部病院などを経て03年渡米。ピッツバーグ大学関連病院勤務。米国家庭医療専門医、公衆衛生学修士。08年手稲渓仁会病院。09年より現職。

連載の紹介

【臨床講座】家庭医の作法
どんな時でもまずかかってもらえる医者、それが「家庭医」。住民には心強い存在であり、医師不足対策への処方せんにもなり得ます。本連載では、実例などを盛り込みながら、家庭医の果たすべき役割を考えていきます。

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