日経メディカルのロゴ画像

高齢者には、たとえ元気でも体重の変化を聞こう
転倒リスク評価の重要性

2011/05/17

 米国に行って家庭医療を学ぶまで、私にとって医療といえば、病院や診療所で病気の人を待ち、来院した「病気のある」患者さんを診療することでした。

 ところが米国で研修してみると、いわゆる「病気」ではない人を診療する機会が多いのです。例えば、運転免許を取るための健診、就職前健診、小児の健診などなど…。米国では17歳の高校生でも年に1回は健診を受けるのが当たり前で、予防接種の漏れの確認(大学に入る前に髄膜炎菌の予防接種は済んでいるか、など)、お酒・たばこ・違法薬物の使用に関しての確認や指導など、患者と話し合うべき予防医学のポイントは山のようにあることを学びました。

 ただ、健診に関しても、診療所に来る人だけを診るという点では、結局のところ通常の診療と同じです。しかしその後、家庭医がただ病院や診療所で待つだけの医者ではないことがわかりました。そして、待つだけでない医者には、様々な役割が求められるのです。

認知症に関する講演会がきっかけで来院した高齢女性
 ある日のこと、きれいな白髪の女性が、私への面会を希望されて当クリニックに来院されました。聞くと、地域の「認知症の家族の会」の代表をされている方で、私に認知症に関する講演会を依頼されに来たとのこと。私は喜んで講演を引き受けました。

 講演会では、「家庭医が診る認知症」と題して、家庭医が子供から老人まで、病気や専門科にかかわらず幅広い診療を行うこと、その上で認知症も家族という単位を考えながら診ることなどを分かりやすくお話しさせていただきました。講演の後は質疑応答の時間を設けたのですが、予想通り身内の認知症のことで思い悩む方々からの質問が絶えず、質問をしたいのにたくさんの人が待っているのでやむなく帰られた方も多くおられたようです。

 さて、それからというもの、次のケースのような方がよく来院されるようになりました。

◆指導室にて
研修医 先日の先生の講演会を聞いて自分が認知症ではないかと心配になって来院している87歳で独居の女性です。短期記憶が軽度障害されていますが、実際には社会的機能の低下もなく、近所の方に支えられて十分生活できている方です。
 特記すべき既往がなく、ほとんど医者にかかったこともないということでした。驚くほどお元気な方です。MMSE(mini-mental state examination)は30点満点中28点で引き算がマイナス1点、物の名前が1つだけ思い出せなくてマイナス1点でした。認知症の中核症状、周辺症状ともに特別問題はないようでした。身体学的所見は神経学的所見も含めて異常なく、今回の診察では認知症とは言えない状態と考えます。

著者プロフィール

小嶋 一(手稲家庭医療クリニック院長)●こじま はじめ氏。2000年九大卒。沖縄県立中部病院などを経て03年渡米。ピッツバーグ大学関連病院勤務。米国家庭医療専門医、公衆衛生学修士。08年手稲渓仁会病院。09年より現職。

連載の紹介

【臨床講座】家庭医の作法
どんな時でもまずかかってもらえる医者、それが「家庭医」。住民には心強い存在であり、医師不足対策への処方せんにもなり得ます。本連載では、実例などを盛り込みながら、家庭医の果たすべき役割を考えていきます。

この記事を読んでいる人におすすめ