
23歳の女性が、2~3カ月続く心窩部不快感にて来院した。診察では心窩部痛など腹部所見はなかった。食欲は低下していたが、体重減少は2カ月で1kg程度。既に他院でH2ブロッカー、胃粘膜保護薬、機能改善薬が処方されていたが、あまり効果がないと訴えて来院した。
この症例への内科医としての対処としては、(1)胃カメラか胃バリウム造影の検査を申し込む、(2)処方を変更する、(3)同じ処方を続けてもらう、(4)消化器専門医を紹介する、などがあるかと思う。
しかし、これらの対処をする前に、少し本人の話を聞いて見ることにした。すると、最初は「今年から、新入社員として企業に勤めている。仕事はそれほどきつくない。しっかり仕事はこなしている自信がある」と前向きに話していたが、その後、「職場の人間関係に悩んでいる。寝付きが悪く、朝早く目覚めてしまう」と話し始めたのだ。また自分の性格について、「几帳面でまじめ、他人への気配りもよくすると思う」と語った。
表情にあまり笑顔が見られないことから(50歳近い私に、20歳代の女性はあまり笑顔を見せないかもしれないが…)、うつ症状を疑いSRQ-D(Self-Rating Questionnaire For Depression)うつスケールを試したところ、結果は陽性だった。
そのため、「少しストレスが貯まっていますね。特に胃という臓器は、『緊張して胃が痛くなる』とも言われるように、ストレスにすぐにやられてしまいますから。憂うつな状態から、一歩進んで少し軽いうつ傾向にあるみたいです」と、うつ傾向であることを伝えた。すると患者は、「今後、休職しようかと思う。転職も考える」というのだ。
うつ傾向であることと同時に、選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)について副作用を含め説明し、同意が得られたため、SSRIのパロキセチン(商品名:パキシル)10mgを処方した。特にこの症例は、身体症状として消化器症状があるため、SSRIの使用を躊躇したが、胃もたれ、胃部膨満などがなく胃機能改善薬の併用で対処できると考え、セロトニン受容体作動薬のモサプリド(商品名:ガスモチン)3錠/日も処方した。