日経メディカルのロゴ画像

どこかで起きていてもおかしくないエラー症例(Case No.19)
6回受診してやっと化膿性脊椎炎の可能性が想起

2021/04/20
河東 堤子(東京大学医科学研究所幹細胞生物学分野)

【症例】80歳男性
【主訴】腰痛
【既往歴】高血圧、糖尿病、脂質異常症
 3週間前に自宅の大掃除をし、その翌日から腰痛を発症した。前日の大掃除のためと思い経過を見ていたが改善せず3日後に近医の整形外科を受診した。腰椎X線撮影を行い、腰椎圧迫骨折を指摘され、内服鎮痛剤を処方され帰宅となった。内服を継続していたが改善なく、その1週間後に再度同じ整形外科を受診した。さらなる精査のため、当院の整形外科を紹介され受診し、腰椎CTを撮像したところ、やはり圧迫骨折を指摘され、鎮痛剤増量と軟性コルセット着用を指示され帰宅となった。その後も4~5日ほど鎮痛剤内服を続けたが改善乏しく、疼痛のため眠れず夜間救急外来を受診した。
 患者は、整形外科の指示通りのコルセット着用や内服を行っていなかったことから、コンプライアンス不良による圧迫骨折の疼痛コントロール不良と判断し、特に追加検査などは実施せず、ボルタレン坐剤挿肛とアセトアミノフェン点滴にて鎮痛を試みた。疼痛はある程度改善し、救急当直医は、整形外科の指示を順守するように注意した上で帰宅とし、既に再診予約がとられていた整形外科を予定通り受診するように指示した。
 帰宅後も腰痛は持続し、やはり症状が改善しないため、発症から3週間程度経ったある週末の土曜日に再び救急外来を受診した。これまでの治療に対する反応が思わしくないため、この時対応した後期研修医は念のため腰椎単純CTを再検したが、やはり腰椎圧迫骨折が見られるのみであった。また、翌週月曜日に整形外科外来予約がとられているため、これを予定通りに受診すべきだと考え、それ以上の精査は行わず、前回奏効した鎮痛剤投与のみで帰宅とした。
 しかし、やはり腰痛が我慢できなくなり、翌日日曜日の早朝に再度救急車で当院救急外来に搬送された。このとき救急隊到着時の検温にて初めて38.5℃の発熱に気づいた。身体所見では、前日と同じく、脊柱正中に叩打痛を認めた。発熱が見られていたため、採血を行ったところ、WBC 20,000/μL(好中球95%)、CRP 28.9mg/dLと著明な炎症反応の上昇を認めた。ここで、上級医が整形外科初診時のCT読影を改めて確認すると、圧迫骨折が指摘されていたL4/5付近の脂肪織濃度上昇の指摘があり、化膿性脊椎炎・椎体炎が否定できないとの見解であった。
 これらの結果から、化膿性脊椎炎・椎体炎の可能性が高いと判断され、血液培養2セット採取の上、メロペネム1g 12時間ごとの投与を開始、入院加療とした。
 翌日、入院時スクリーニング検査として行われたCOVID-19LAMP/抗原検査陰性を確認したのちに腰椎MRI撮影を行った。その結果、T2強調像/STIR像でL4/5椎間板とその上下の椎体に高信号域を認め、椎体の浮腫・炎症が示唆された。
 第3病日に血液培養よりmethicillin-susceptible Staphylococcus aureus:MSSA 4/4陽性となり、これらの結果を受け、化膿性脊椎炎の診断とした。感受性結果を参考に抗菌薬をセファゾリン2g 8時間ごとへde-escalationした。抗菌薬投与翌日にフォローアップの血液培養を提出、後に陰性確認した。第3病日には解熱し、採血での炎症反応も経時的な改善が見られた。感染性心内膜炎スクリーニングのため、経食道心エコーを行ったがvegetationは確認できなかった。6週間の点滴抗生剤投与を経て、腰痛症状の改善、CRPの正常化を確認して自宅退院となった。

著者プロフィール

日本病院総合診療医学会の若手部会診断エラーチーム(担当理事:獨協医科大学総合診療科の志水太郎氏)のメンバー。

連載の紹介

診断エラー学のすすめ
診断エラー学は、海外では研修医や医学生に対する教育分野で非常に注目されている新しい学問です。日本でも、総合診療に従事する医師らが日本での診断エラー学の普及に乗り出しました。そのプロセスと成果を報告していただきます。
書籍『診断エラー学のすすめ』 新年度 応援キャンペーン中

 診断エラーと言えば、真正面から向き合うことを避けたくなるテーマです。しかし、なぜ診断エラーに遭遇してしまったか、どうすればエラーを避けることができたのか……を考え続けることなくして、臨床医の診断が完結することはありません。本書は、真の診断力を身につけるために必要不可欠な「診断エラー学の極意」を、臨床医が実践例を通して書き下ろしました。(発行:日経BP、5500円[税込])

この記事を読んでいる人におすすめ