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民間の医療保険? そんなの入る必要ありません

2018/01/19

 これを読んでいる医師のみなさんも、いろいろな保険に入っていると思います。

 保険は、その有事が発生する確率は低いが、万が一発生してしまうと損失が大きいものに適しています。逆に、発生する確率が高く、それが発生しても損失が小さければ、保険をかける意味がありません。例えばレストランで外食すると、間違いなく損失が発生します。この外食によるマネーの損失に保険をかけると、「外食したときに外食保険給付が月8万円受け取れる。ただし保険料は月額10万円」という残念な保険商品が出来上がります。当然ながら、そんな保険には誰も入りません。

 外食保険の話は極端ではありますが、予期できる出費(コスト)については、その都度、手持ちの資金から支払うのが正しいスタンスです。保険金を使ってコストを払うのは馬鹿らしいことです。これにはみなさん、同意いただけるでしょう。

ヘッジすべきリスクをカバーしているか
 今回、私がお伝えしたいのは、「医療保険は不要である」ということです。ここでいう医療保険とは、民間の保険会社が提供している入院保険のことです。入院すると、加入時に決めた1日当たりの給付額に入院日数をかけ算した保険金が支払わる、あれです。「ちょっと待って! もし大きな病気をして入院が長引いたらどうするんだ? 入院費だってバカにならないじゃないか!」という声が聞こえてきそうです。

 テレビCMでも時々、「月々たったの2000円で充実の保証」とか宣伝してますよね。生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」によると、8割以上の世帯が医療保険に加入しているとされています。8割ですよ、8割! ちなみに入院日数に応じて保険金が支払われるわけですから、病気の後遺症が長引いて医療費がかさんでも保険は支払われません(通院保険は除く)。

 現実社会には、いろいろなリスクがあります。死亡、入院、癌になる、隕石が降ってくる、富士山が噴火する、宇宙人が地球に攻め込んでくる、などなど。それぞれのリスクをカバーする保険商品が作られています(宇宙人保険はないかもしれませんが)。「もしもの時に備えて」と言われると、つい保険に入った方がいいかも、と思ってしまうかもしれませんが、全てのリスクに備えるのは現実的ではありません。備えるべき優先度があるはずです。

 また保険というものは、よほどのまれな現象が起こらない限りは、保険を支払う側が損をする(保険会社が得をする)構造になっている金融商品です。生命保険や年金保険では、一定額まで税金が控除されますが、その金額は微々たるものです。

 では、どうやって入るべき保険の優先順位を付けるのでしょうか。チェックポイントは、「ヘッジすべきリスクをカバーしている保険かどうか」です。言い換えると、「起こってしまうと経済的にダメージが大きいため、多少損をしても保険料を支払うのはやむを得ない」と割り切れる保険には、入っておく方がよいでしょう。

 例えば、もしも火災が起こって自宅が全焼したり、交通事故を起こして高額の賠償を請求されたりしたら、今ある貯蓄だけではまかなえない可能性があります。ですから、火災保険や自動車保険が存在します。これは、起こりうる事態による経済的ダメージが許容範囲を超えているからです。これらの保険も、加入すれば間違いなく保険会社が得をしますし、大半の加入者は損をすることになりますが、そんなことは割り切ってみんな保険料を支払っているのです。

 さて、医療保険に話を戻しましょう。生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」によれば、入院時の自己負担費用は、治療費・食事代などを全部含めて1日平均2万円くらいです。1カ月入院したら60万円くらいかかりますね。でも、みなさんご存知の通り、日本には高額療養費制度という素晴らしい制度があり、高額の医療費が発生した場合は給付金が出ます。ですから、多くの日本人の自己負担額は月2万~5万円になります。1カ月入院しても、そんなもんです。会社員の場合であれば、健康保険の「傷病手当金」ももらえます(こちらはフリーランス医師はもらえません)。

 もしも病気になって入院することになったとしてもせいぜい月に5万円くらいの負担なのに、それにわざわざ年に何万円も払って医療保険でヘッジをかける意味はありません。よほど貯蓄がない人はともかくとして、月2,500円の医療保険だとしても、10年間で支払う額は夫婦で60万円にもなります。あのね、そんなに貯蓄がないのなら、医療保険で支払っている分を投資か貯蓄に回しなさい。

 少なくともこれを読んでいる医師の方々なら一定の貯蓄があるでしょうから、短期入院に関しては十分にカバーできるわけで、医療保険に入る意味は全くありません。「すでに払ってしまった分がもったいないから、やめられない」という人も多いでしょうが、それも保険会社の作戦です。私なら、たとえ支払い分が掛け捨てになったとしても、今すぐに解約します。

 もちろん、例外もあります。それは、超長期入院です。例えば、万が一リカバー不可能な精神科の疾患にかかってしまって入院が年単位で長期化した場合。たとえ1カ月当たりの支払い上限が高額療養費制度で決まっているとはいっても、長期入院で職を失うようなことになれば、経済的なダメージは有意に大きいと言えるでしょう。こうしたリスクを医療保険でヘッジする意義はあるわけですが、医療保険の多くは入院期間の上限を2年とか3年とかに設定しているんですよね。よくチェックしてみてください。

 結論を申し上げると、少なくとも現時点では、健康保険以上に手厚い保険はないので、民間の医療保険にお金をかける必要はありません。高収入で貯蓄が平均的なサラリーマンよりも多い医師なら、なおさらです。

 もしかしたら今後、高額療養費制度が縮小して患者の自己負担額が上がる可能性がある。そのリスクをヘッジするために医療保険に入るべきだ――、とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、そうした事態になるということは、イコール日本の財政が持たなくなってきているということ。そこを心配するなら、投資家の観点から言うと、医療保険に入るよりインフレリスクのヘッジに取り組むべきだと思いますが、いかがでしょうか。

著者プロフィール

ドクターK●関西の病院で働く30歳代勤務医。リーマンショック後に株式投資に目覚め、資産運用を開始。幾度となく挫折を味わいながら勉強を続け、アベノミクスに乗じて投資資金を大きく増やす。著書に「忙しい医師でもできる Dr.Kの株式投資戦術」。

連載の紹介

Dr.Kの「医師のためのバリュー投資戦術」
忙しい? 時間がない? そんなあなたも大丈夫! 日常臨床をバリバリこなす超多忙な現役若手医師が、バリュー投資と上手な資産運用のコツを教えます。【注】当コラムは投資にあたっての参考情報を提供するものです。投資判断は自己責任でお願いします。

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