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判例解説●東京高裁2009年5月31日判決
帝王切開術の遅れで脳障害 高裁が医師無責の逆転判決

2018/04/03
桑原 博道=弁護士(仁邦法律事務所)

病院の人員体制が手薄な時間帯に行われた出産で、吸引分娩が奏功せず難産となり、胎児に脳障害が残りました。地裁は、医師の判断を誤りとした鑑定人の意見を踏まえ医師の過失を認めましたが、高裁はその判断を覆しました。

事件の概要

 患者は甲状腺疾患を罹患し、初産を迎える34歳の妊婦だった。妊娠が判明して間もなく、それまで通院していた診療所の医師から、主要な診療科のそろっている病院で出産した方がよいと言われ、2002年10月30日に妊娠8週6日でA病院に紹介となり、通院を開始した。

 2003年6月7日(妊娠39週2日)の8時50分ごろ、患者は前期破水してA病院に入院した。9時10分から45分、および13時から13時53分まで分娩監視装置が装着されたが、特に問題となる所見はなかった。

 14時15分から再び分娩監視装置が装着されたが、15時30分ごろ、陣痛発作時に最減少胎児心拍数が80bpmとなり一過性徐脈が出現し、酸素投与が開始された。15時58分ごろには変動一過性徐脈が繰り返し出現し、16時21分ごろ、再度一過性徐脈が出現して患者の体位変換が行われた。

 17時30分ごろ、分娩を担当していたB医師は、子宮口を用手的に全開させた。この時点の児頭位置は産瘤を含めて坐骨棘間線から±0cmであった。この時、最減少胎児心拍数は58bpm未満となり、B医師は急速遂娩の必要があると判断した。その後、約7分持続する徐脈が出現し、直後に160bpmから180bpmの反応性心拍数上昇が見られ、基線細変動が減少した。

 B医師はこの間、妊婦を分娩室に搬入して経腟分娩が可能か否かを最終的に判断することにした。当日は土曜日であり、手術室の診療体制が夜間休日の人員で組まれており、帝王切開術を行うには、関係する医療従事者の呼び出しと手術室の準備などに相当の時間が必要であった。一方B医師は、吸引分娩については早期に着手可能であることや、子宮口全開大などの内診所見を考慮しながら、病棟の看護師に帝王切開術の準備を並行して進めるよう指示した。

 17時40分、患者は分娩室に入室したが、その際の内診所見は子宮口全開大、児頭位置は産瘤も含めて+1cmであった。B医師はこうした状態から吸引分娩の実施を決めた。

 17時43分ごろ、分娩の補助に加わったC医師がクリステレル圧出法を1回行った上で、B医師が会陰切開した。しかし、クリステレル圧出法を併用して吸引分娩を3回行ったが娩出できなかった。そこでB医師は緊急帝王切開術に切り替え、18時10分に患者を手術室に搬入。18時35分に胎児は新生児仮死の状態で娩出され、最終的に脳障害が残った。

 患者は、胎児が新生児仮死の状態で生まれ脳障害を生じたのは、医師が適切なタイミングで帝王切開術を選択しなかったためであるなどとして、約1億8000万円の損害賠償を求めてA病院を提訴した。

連載の紹介

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