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判例解説●岐阜地裁2009年1月28日判決
慢性肝炎から肝癌発症 検査怠った開業医に過失

2017/11/27
北澤 龍也=弁護士(北澤龍也法律事務所)

肝癌で死亡した患者の遺族が、早期発見のために必要な検査を怠ったとして、長年診ていたかかりつけ医を訴えました。裁判所は、肝硬変の進行を看過し、必要な検査を実施しなかったとして医師の過失を認めました。

事件の概要

 1935年生まれの患者は1988年7月20日、胸痛を主訴にA病院を受診し、切迫梗塞と診断され8月1日から6日まで入院した。退院後は月1回の割合で通院。循環器部門の担当医は当時、A病院の内科に勤務していたB医師だった。

 患者は8月24日、A病院で腹部CT検査を受け、肝臓は腫大しているが肝硬変ではないと診断された。その後、1989年8月から1993年10月まで年1回の割合で計5回、消化器専門医による腹部超音波検査を受けたが、肝硬変とは診断されなかった。

 B医師は97年にC医院を開業。患者は同年8月、B医師の診察を受けて慢性肝炎と診断された。その後、糖尿病や心筋梗塞、慢性肝炎などの治療のため、2004年6月までC医院に月1回程度通院した。この間、肝癌の腫瘍マーカーであるAFP検査は断続的に実施したが、超音波検査などの画像診断は行わなかった。

 2004年6月、C医院でAFP検査をしたところ、AFP値は135.8ng/mLに上昇。B医師は肝癌発症を疑い、患者にA病院を紹介した。

 患者はA病院で、肝癌と診断された。既に手術などを行えないほど進行しており、7月に死亡。遺族は、B医師が肝硬変への進行を看過し、肝癌の早期発見のために必要な検査を怠った過失があるとして提訴した。

 裁判所が判断の前提で認めた事実の中で重要となるのは以下の通り。

【1】1997年7月末までのA病院での診療経過においては、

(1)1988年8月に測定した患者のICG15分停滞率は17%であった。
(2)1991年10月から1997年6月までに行った血液検査結果では、患者の血小板数は、1992年8月の8.7万と1996年6月の8.9万を除き、おおむね10万以上15万未満/μLだった。
(3)1988年8月の入院当時、患者の平均飲酒量は1日当たりビール大瓶1本程度で、1989年10月当時は1日当たり日本酒2合程度だった。
(4)1989年8月から1993年10月までに5回行った消化器専門医による超音波検査の結果は脂肪肝だったが、1990年9月の検査では「頸部壁がやや肥厚し、辺縁が鮮明に描出されず」、1992年11月の検査では「辺縁鈍」「慢性肝疾患」と診断された。

【2】1997年8月以降のC医院とA病院での診療経過においては、

(1)1997年9月にB医師が行った触診では、「硬い」「辺縁が鈍である」という肝硬変を疑わせる所見を得た。
(2)B医師は1997年8月から2004年6月までに、計18回のAFP検査をしたが、2003年7月の検査後は2004年6月まで検査しなかった。AFP値は、2004年6月が135.8ng/mLだったのを除き、いずれも20ng/mL以下だった。
(3)2001年8月、12月、2002年3月に行った血小板数検査の結果はそれぞれ9.5万、11.4万、12.1万/μLだった。
(4)C医院に通院中、患者のγGTPは100前後から200前後を推移し、2004年2月には211、同年5月には377、同年6月には602だった。
(5)2004年6月にA病院で行った検査で患者はHBs、HCVとも陰性で、肝門部に主座を置くびまん性の肝癌と診断された。同日の超音波検査では「門脈内に充実性」が認められた。
(6)C医院通院時も患者は相当量の飲酒を続け、2004年6月の平均酒量は1日当たり日本酒2合程度だった。

連載の紹介

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