癌の見逃しがあったとして、患者が病院を訴えました。担当医は生検の必要性を患者に説明したものの拒否されたため、責任はないと主張。しかし裁判所は、医師の証言内容は採用できないとし、注意義務違反を認めました。
患者(受診当時76歳)は2002年7月24日、喉の違和感と嗄声を主訴に近隣の病院を外来受診した。病院では喉頭の右側が腫れていることから経過観察となった。しかし、腫脹が改善しなかったので耳鼻咽喉科専門病院を紹介され、同年11月16日に外来受診。局所麻酔下生検の結果、慢性喉頭炎と診断された。
2003年3月3日、患者は被告であるA大学病院耳鼻咽喉科のB医師の診察を受けた。喉頭ファイバー検査では、右仮声帯の腫脹の表面は円滑で肉芽様の所見は見られなかった。同月24日、患者は同科を再度受診し、喉頭ファイバー検査を受けたところ、著変はなかった。翌25日には、喉頭断層写真が撮影された。
4月3日、患者はA大学病院を受診し、B医師に対して嗄声の症状が変わらない旨を伝え、再び喉頭ファイバー検査を受けたが、著変はなく喉頭の表面は正常粘膜であった。喉頭断層写真の所見から、右仮声帯腫脹があったが、リンパ節の腫脹などの所見は見られなかった。
患者は5月1日、B医師の診察を受けたが、著変はなかった。同月29日にも外来受診し、B医師に対してまだ嗄声があることを伝え、喉頭ファイバー検査を受けたが、やはり著変は見られなかった。
患者はその後もB医師の診察を受け、2004年10月にB医師の転勤先であるC病院に入院し、顕微鏡下喉頭腫瘍摘出術を受けた。病理組織検査の結果、右仮声帯腫瘍は中~低分化の扁平上皮癌で、喉頭癌T2期と診断された。その後、放射線治療が行われた。
2005年11月、患者がD大学病院を受診したところ、右頸部リンパ節が触知され、生検するとリンパ節への喉頭癌の転移が確認された。2006年7月、患者はE病院に入院し、喉頭全摘手術を受けた。患者は音声機能を喪失し、身体障害者等級3級の身体障害者手帳の交付を受け、2010年2月に喉頭癌により死亡した。
2009年、患者とその家族は、A大学病院のB医師らが2003年5月29日までに、速やかに生検を実施して喉頭癌の確定診断を下し、すぐに放射線治療を開始すべき義務を怠ったと主張し、喉頭全摘による発声障害への慰謝料などとして2600万円強の賠償を求め提訴した。A大学病院側は、B医師が2003年3月3日の時点で患者に生検を勧めたが拒否され、注意義務違反はないとして争った。