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判例解説●最高裁2011年2月25日判決
手術による後遺症は「期待権侵害」に当たらず

2017/02/08
蒔田 覚=弁護士(仁邦法律事務所)

手術で後遺症が残ったなどとして患者が病院を訴えました。高裁は期待権侵害に基づき慰謝料を認めましたが、最高裁は著しく不適切な医療行為があったとはいえないと判断、期待権侵害を理由とする患者の請求を退けました。

事件の概要

 大工をしていた男性患者は1988年10月29日、左脛骨高原骨折の傷害を負い、同年11月4日ごろA病院に入院し、整形外科のB医師による骨接合術および骨移植術を受けた。患者は1989年1月15日にA病院を退院し、その後、同病院に通院して診察・リハビリを受けた。その際、患者はB医師に対して左足の腫れを訴えることがあったが、B医師は検査や治療は行わなかった。

 同年8月ごろに、A病院で手術時に装着されたボルトを抜釘した後、患者は自らの判断で通院を中止した。患者はその後も、1992、1995、1996年に肋骨痛や腰痛などを訴えてA病院を受診することがあったが、その際にB医師の診察を受けても左足の腫れを訴えることはなかった。

 1997年10月22日、患者はA病院に赴き、88年の手術後、左足の腫れが続いているなどと訴えた。B医師は、単純X線検査、足の周径測定などを行った。その結果、左足の周径が右足より3cmほど大きかったものの、左膝の可動域は0~140°で、1988年の手術は整形外科的治療として満足できるものだったと判断。圧痛もなく大工の仕事を続けられていたことなどから、特段の措置を講じなかった。

 患者は2000年2月ごろ、左くるぶしの少し上に鶏卵大の赤いあざができ、その後左膝下から足首にかけて無数の赤黒いあざができるなど、皮膚の変色が生じたため、A病院を受診。B医師は皮膚科の診察を勧めた。

 2001年1月4日、患者は左足の腫れや皮膚の変色などが軽快しないと訴えA病院を受診。皮膚科でうっ血と診断され投薬を受けていたため、B医師は単純X線検査を行うにとどまった。その後、患者は同年4月から10月にかけて2カ所の大学病院を受診。左下肢深部静脈血栓症ないし左下肢静脈血栓症後遺症と診断された。

 患者は、不適切な医療行為によって後遺障害が残ったことに加え、当時の医療水準に則した適切かつ真摯な医療行為を受けることを期待する権利(期待権)を侵害されたとして、損害賠償を求めてA病院およびB医師を訴えた。

 一審は、1997年10月の時点でB医師には専門医に紹介するなどの義務を怠った過失があるとしたが、その時点ではもはや適切な治療法はなく、治療を施しても効果は期待できなかったと判断して患者の請求を棄却した(山口地裁2007年2月22日判決)。

 二審でもB医師の過失と後遺症の因果関係は否定したが、期待権については「患者は約3年間、その症状の原因が分からないまま、その時点においてなし得る治療や指導を受けられない状況に置かれ、精神的損害を被ったということができる」とし、その侵害を認定して300万円の慰謝料の支払いをB医師らに命じた(広島高裁2008年10月10日判決)。

 これに対して医療側が上告し、最高裁で判断が示されることとなった。

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