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判例解説●大分地裁2009年3月26日判決
術後の褥瘡で敗血症から死亡、医師の過失認定

2017/01/25
石黒 敏洋=弁護士(札幌アライアンス法律事務所)

整形外科手術を受けた患者が、術後に褥瘡が生じ敗血症で死亡しました。遺族は、褥瘡の治療が不適切であったとして病院を提訴。裁判所は、医師らの褥瘡予防措置および治療に過失があったと認定しました。

事件の概要

 腰痛、下肢痛などの持病があった男性患者(85歳)は、被告Aが設置する病院で腰部脊柱管狭窄症、胸椎黄色靭帯骨化症と診断され、2004年2月4日、B医師の執刀で胸椎11/12および腰椎2/3~4/5の椎弓切除手術を受けた。5日23時、患者の右腰背部とシーツの間に布製絆創膏(直径4~5cm、高さ7cmほどで辺縁が角張ったドーナツ状の物)が紛れ込んでいるのが確認された。

 2月8日、患者の仙骨部や右腸骨背部に褥瘡が認められ、翌9日に褥瘡の深達度はともにⅡ度となっていた。B医師らは12日、患者の創面にゲンタシン(一般名ゲンタマイシン)軟膏を塗布した。22日に仙骨部のガーゼ汚染、褥瘡周囲の白色化が、23日には仙骨部の悪臭・滲出液が確認され、24日に実施された褥瘡部膿培養検査ではミクロコッカスが検出された。3月1日までにはポケット(空洞部分)の形成も確認された。患者の家族はB医師に対し、褥瘡の治療を皮膚科医に依頼してほしいと申し出たが、引き続き整形外科で管理することになった。

 B医師らは1日から8日まで、ミクロコッカスに感受性のあるペントシリン(ピペラシリン)を投与した。22日には創部を鋭匙(えいひ)で削って洗浄し、チエナム(イミペネム・シラスタチン配合)投与を開始。18日の褥瘡部培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたことを受け、23日から29日までバンコマイシンの投与を行った。

 4月5日の褥瘡部培養ではMRSAおよび緑膿菌、22日の咽頭粘液培養ではMRSAが検出された。次の検査が実施されたのは2カ月後の6月22日であり、褥瘡部からMRSAが検出された。

 4月12日以降、創部は縮小傾向になった。13日から抗MRSA治療薬のハベカシン(アルベカシン)の散布を行った。18日には褥瘡はきれいなピンク色となり、患者は歩行器で院内を歩いたり外出したりしていた。4月21日以降、患者に食欲不振とCRP上昇が見られ、肺炎の疑いでスルペラゾン(セフォペラゾン・スルバクタム配合)を5月3日まで投与した。

 患者のCRPの値は2月10日に4.31mg/dLとなり、その後も18日(3.83)、25日(18.09)、3月3日(5.47)、10日(1.39)、17日(4.55)、4月5日(4.52)、19日(17.78)、21日(20.44)、24日(12.26)、28日(9.41)、5月3日(10.40)と高値を示していた。

 5月3日、病院内の内科医から、発熱やCRP高値の原因は褥瘡部と考えられるとの見解がB医師に伝えられた。13日、B医師は褥瘡が縮小したためハベカシンを中止。フィブラスト(トラフェルミン)スプレーで褥瘡の治癒促進を図り、褥瘡は縮小していったが、治癒には至らなかった。なお、患者は手術後から37℃台の微熱が継続していた。

 患者は6月21日ごろから体温が38℃台に上昇し、CRPは22日に16.48となった。23日には悪寒戦慄、体温39.0℃、心拍数108/分を呈し、発熱も断続的に認められた。肺炎の疑いでスルペラゾンが23日から28日まで、オメガシン(ビアペネム)が28日から7月5日まで投与された。7月6日以降、全身状態が不良になってきたためミノマイシン(ミノサイクリン)が7日間投与され、16日からはバンコマイシンが投与された。

 18日、褥瘡部から血膿汁によるガーゼ汚染が多量にあり、緊急に褥瘡の切開、排膿、デブリードマンが実施されたが、20日に多臓器不全が認められ、23日に患者は死亡した。

 患者の遺族は、B医師らに褥瘡発生防止義務違反、褥瘡に対する治療義務違反などがあったとして、病院の開設者Aに対し総額約3500万円の損害賠償を求めて提訴した。

連載の紹介

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