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事故調査報告書の作成に注意、裁判所が提出を命じるケースも

2014/04/21

 患者の遺族が病院に対し、院内で作成した医療事故調査報告書の提出を求めるケースがあります。裁判所が提出を命じた場合、その内容次第では病院に不利に働きかねません。(東京高裁2003年7月15日決定)(広島高裁岡山支部2004年4月6日決定)

【執筆】水澤亜紀子=医師・弁護士(皆川・水澤法律事務所)

事件の概要

●事件1
 私立大病院(A病院)に入院していた患者が同病院の医師により抗癌剤を過剰投与され死亡したとして、患者の遺族が、医師とA病院を開設する学校法人を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こした。訴訟の中で遺族は、医師らの責任を立証するため、A病院が作成した「医療事故経過報告書」について、文書提出命令の申し立てを行った。

●事件2
 患者は先天性心疾患を有しており、国立大病院(B病院)で手術を受けた。患者は、手術の際に大動脈弁が傷付けられたとして、B病院の開設者である国を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こした。訴訟の中で患者は、この医療事故の状況に関してB病院が、(1)文部省(当時)に報告するために作成した文書(2)病院内で病院長などに報告するなどのために作成した文書――について、文書提出命令の申し立てを行った。

決定

●事件1
 A病院側は、患者側の文書提出命令の申し立てに対し、「本件報告書は個人のプライバシーなどが侵害されたり、個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、その開示によって所持者側に看過し難い不利益が生ずる恐れがある文書に当たるため、提出は不要である」などと主張した。

 一審では、「(1)本件報告書のうち事情聴取部分は、もっぱら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部のものに開示することが予定されていない文書であって、開示されると団体などの自由な意思形成が阻害されるなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生じる恐れがあるので『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』(民事訴訟法220条4号ニの所定除外文書)に当たり、提出命令は認められない、(2)報告提言部分は、集められた資料などから本件医療事故についての原因を解明して医療機関としての責任の所在を明らかにし、それに基づく学校法人の懲戒委員会への答申と、今後の事故防止のための提案をしているものであるから除外文書には該当しない」と判断し、本件報告書のうち報告提言部分についてのみ提出を命じた。

 原告、被告ともに控訴したが、控訴審もほぼ同様に判断し、抗告を棄却した。その結果、A病院側は本件報告書の報告提言部分について裁判所より提出を命じられ、損害賠償請求訴訟の証拠として利用された(東京高裁2003年7月15日決定)。

●事件2
 一審で裁判所は患者の申し立てを却下し、患者は控訴した。控訴審は「本件各文書は、本件医療事故について行政庁内部において相互に自由かつ率直な意見交換を行うことにより、将来の医事紛争が予想される患者らとの交渉ないし訴訟追行へ向けての対応・方針を検討することを目的として作成されたものであって、非公知の事項に関するものであり、かつ、紛争当事者としての国の円滑な交渉ないし訴訟追行の適正を確保するために、実質的にも秘密として保護するに値する事項に関するものであるから、『公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずる恐れがあるもの』(民事訴訟法220条4号ロ)に当たるので文書提出命令は認められない」と判断した(広島高裁岡山支部04年4月6日決定)。

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