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判例解説●京都地裁2008年2月29日判決
心タンポナーデ措置に遅れ、理解しがたい過失判決

2014/04/07

 外傷が原因で心タンポナーデを起こして死亡した患者の遺族が、症状を見逃して必要な検査・処置をしなかったとして病院の過失を訴えました。裁判所は、症状の見落としはなかったとしつつも、開胸術の遅れがあったと判じました。

【執筆】平井利明=弁護士(中村・平井・田邉法律事務所)、立命館大法科大学院教授

事件の概要

 当時56歳の男性患者は2003年2月21日の15時過ぎ、坂道に停車した自分のトラックがサイドブレーキの引き忘れで動き出したため、これを止めようとしてトラックと後方の駐車車両に挟まれた。その際、左足関節開放性脱臼骨折と肋骨骨折をした。

 患者は、16時ころにA病院が運営する3次救急施設のB救命救急センターに搬入された。A病院では、臓器の異常も調べるために胸腹部の迅速簡易超音波検査(FAST)や12誘導心電図検査などを実施したが、特に異常はなかった。

 その後、19時40分から左足の緊急手術(脱臼観血的整復術、骨折観血的固定術、関節固定術)を施行。術後、患者は心窩部痛などを訴えたが、翌22日の2時20分ころに行った12誘導心電図検査やバイタルに異常はなく、3時ころ入眠した。

 同日6時ころ、患者は心窩部痛を再度訴えたが、腹部超音波検査やバイタルには特段の異常はなかった。7時10分ころには、造影CTを実施。その際に、心嚢血液貯留(心嚢液の厚みは1cm以上、心嚢液中に血腫もしくは凝血塊あり)と左血胸が見付かった。そこで、担当医師らは相談して、7時40分過ぎに心嚢液の排除のための開胸手術の実施を決定。8時30分ころには手術の準備を整えた。

 8時10分ころには患者にチアノーゼが見られたので、酸素吸入を開始。8時30分ころ、心タンポナーデが生じて血圧が急激に低下したため、A病院はアンビューバッグによる人工呼吸やブミネートポンピング、昇圧剤と血液製剤の投与、気管内挿管を施行したが、8時50分ころに心停止した。

 8時57分ころ、心臓マッサージ下で手術室へ移動(9時2分に入室)し、9時4分から11時48分まで開胸による心タンポナーデ解除術を施行。この際、左第6~8肋骨に1カ所ずつ骨折があり、心臓には小骨片1本が刺さって左室心尖部に約3cmの裂創を認めたが、既に止血していた。心嚢切開により約430mLの心嚢内の血液が、トロッカーカテーテルにより胸腔から360mLの血液が排出された。

 術前からの心停止時間は約20分間に及び、患者は術後、低酸素脳症による脳死となった。そして、術後12日目に死亡した。これに対して遺族は、患者が死亡したのは、A病院の医師らが心タンポナーデ発症の徴候を見逃して必要な検査・処置をしなかったことと、発症後、適切な措置を取らなかったことに原因があるとし、A病院に対して逸失利益や慰謝料など計約7600万円の支払いを求めて提訴した。

連載の紹介

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