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判例解説●岐阜地裁2008年4月10日判決
迷惑な長期入院患者、通院可能と判断し退院命じる

2014/02/17

 患者が、入院治療は必要ないと診断された後も退院せず5年以上居座り続けました。病院は患者に何度も退院を求めましたが、応じなかったため提訴。裁判所は、入院から3年後には通院で治療可能だったとし、退院を命じました。

【執筆】桑原博道=弁護士(仁邦法律事務所)、東邦大客員教授、順天堂大客員准教授

事件の概要

 患者(当時62歳、糖尿病の既往あり)は2002年11月16日の17時35分ころ、近医からの紹介で胸痛を主訴としてA市民病院を受診した。心電図検査により急性心筋梗塞と診断され、18時25分ころから、右肘部の右上腕動脈から穿刺して心臓カテーテル検査および経皮的冠動脈形成術(PTCA)が実施された。

 PTCAの実施後、止血器を用いて穿刺部位からの止血防止が行われた。止血器は腕に装着して、透明なバルーンに空気を注入し、穿刺部を圧迫して止血する使い捨ての製品で、空気の最大充填量は75mLだった。A市民病院では通常、止血器の装着時に55ないし60mLの空気を注入して脈がかすかに触知できる程度とし、穿刺部位の状態などを観察しながら、基本的に1時間おきに5mL程度ずつ減圧する方法を取っていた。

 患者は、装着当初は異常を訴えなかった。しかし、19時30分ころに痛みを訴えたので、看護師は、動脈穿刺部から出血がないこと、止血部位より末梢側で撓骨動脈の血流の触知が可能なことを確認し、医師の指示で鎮痛薬のポンタールを内服させ、止血器の空気を15mL除去した。20時30分ころには、同じく鎮痛を目的にソセゴンとアタラックス―Pを筋肉注射し、止血器の空気を5mL除去した。

 その後、患者は21時30分ころと22時30分ころに疼痛などを訴えたが、翌11月17日0時、2時、4時に看護師が巡回した際には異常はなかった。しかし、6時30分ころから再び疼痛などを訴えた。その後、8時ころには止血器は外され、患者は昼ころには、「手の痛みはだいぶよくなりました。大丈夫です」と伝えた。

 なお、A市民病院の医師と看護師は、止血器の装着から4時間後までは1時間おきに、それ以降は2時間おきに患者の状態を観察したが、血腫や仮性動脈瘤は認めなかった。しかし、患者はその後、穿刺部の疼痛や末梢側の手指の痺れ、運動障害を訴えるようになった。

 12月9日、再びPTCAを施行し、冠動脈の再狭窄はなくなった。その後も入院を続けた患者の心機能は、04年6月28日にはほぼ正常化し、医師は7月1日、入院治療の必要はないと判断した。また、正中神経不全麻痺、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の治療も、05年10月31日の時点で入院継続の必要はないと診断した。

 A市民病院の院長は04年7月2日、患者に退院するよう口頭で伝えたが、患者は病室を占拠し続けた。その後も病棟で騒ぐなどしたため、A市は7月26日、退去・妨害禁止等仮処分命令の申し立てを裁判所に行った。

 裁判所は、治療行為に必要な範囲を超えて医療従事者に面談を求めること、指定場所以外での喫煙、敷地内で大声を出すことなどを禁ずる決定をしたが、患者は従わなかった。

 A市民病院の院長は05年11月1日、患者に退院を命じ、その旨を記した書面を交付。その後も退院命令の意思表示を何度もしたが、患者は怒号、無断外出、街宣車などを使って病院を非難する旨の通告といった行為を続けた。さらに、治療費や食事負担金の計175万4540円の支払いもしなかった。

 そこで、A市は06年4月、患者に対して治療費などの支払いと退院を求めて提訴した。一方で患者は、病院の止血措置に医療過誤があったと主張し、損害賠償を求めた。

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