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判例解説●大阪地裁2008年11月25日判決
典型症状欠く肺塞栓症で死亡、検査義務争われるも医師無責

2014/01/20

 救急搬送された患者が翌日、肺塞栓症で死亡しました。遺族は、早期に心エコー検査をすべき注意義務違反などが病院側にあったと訴えましたが、裁判所は、臨床症状などから肺塞栓症を疑うのは困難だったと判じました。

【執筆】桑原博道=弁護士(仁邦法律事務所)、東邦大客員教授、順天堂大客員准教授

事件の概要

 73歳の患者は2005年9月21日19時、自宅で呼吸困難を訴え、救急車でA病院に搬送された。搬送時の血圧は84/50~88/60mmHg、脈拍数は94回/分、体温は36.7℃、SpO2は80~85%だった。

 救急外来のB医師(研修医)が診察したところ、顔面蒼白だったが胸痛や意識障害はなく、下肢に浮腫は認められなかった。胸部聴診でラ音はなかった。Bは血液検査、心電図検査および胸部レントゲン検査などを実施することにした。

 血液検査の結果は、ヘモグロビン9.2g/dL、白血球数6650/μL、CRP0.34mg/dL、AST27IU/L、ALT8IU/L、LDH230IU/Lなど。血液ガス分析は、pCO225.5mmHg、pO269.4mmHg、SaO294.5%などだった。

 21時5分ころ、酸素3L/分をカニューレで経鼻投与したところ、SpO2は98~99%まで上昇。21時28分ころの胸部レントゲン検査(臥位)ではCTR(心胸比)は60.51%だったが、肺野に問題となる所見はなかった。21時36分ころ点滴開始。21時37分ころの心電図検査では、洞調律、完全右脚ブロック、V2~V6誘導における陰性T波が認められた。

 Bは、緊急を要する疾患は疑えないが、慢性的な呼吸器疾患があるのではないかと考え、経過観察のため患者を入院させ、夜間当直医のC医師(消化器内科医)に引き継いだ。

 Cは患者を診察の上、胸部レントゲン所見から心不全由来の呼吸不全を起こした可能性もあると判断し、酸素3L/分の投与を継続し、点滴の量をやや少なくすることにした。

 翌9月22日4時30分ころ、D看護師が寝ていた患者に声をかけ、仰臥位から左側臥位へ体位変換。排便が少しあったので臀部を洗っていると、患者が突然呼吸苦を訴えた。仰臥位に戻すと嘔気を訴え、全身に冷汗があった。その際の血圧は84/60mmHg、心拍数66回/分、SpO290~93%。Dは、心負荷がかかって循環動態に変化が起きたと考え、心電図モニターを装着。モニター上、入院時と比べて特段の変化はなかった。嘔気は数分で消失した。

 その後、Dがベッドを45度に上げて朝食を準備している最中にも呼吸苦を訴え、SpO2が86~88%に低下。酸素投与量を3L/分から5L/分に増やすと、呼吸苦は軽減してSpO2は92~95%に改善した。

 9時14分ころに採血した血液検査では、AST67IU/L、ALT28IU/L、LDH317IU/Lだった。

 10時ころ、E医師が診察。11時5分ころの採血ではトロポニンT陽性、CK―MB9IU/L、AST375IU/L、ALT138IU/L、CPK73IU/Lなどだった。Eは、肺塞栓症または右心系弁疾患による右心負荷由来の肝障害を考え、心エコー検査を依頼した。

 12時40分ころに実施した心エコー検査では、右心房の顕著な拡大、右室の拡大、右室からの左室圧排、三尖弁の高度逆流、下大静脈の拡大があった。肺梗塞を疑って、胸部造影CT検査をオーダーした。

 13時ころ、CT検査の造影剤用の血管を確保している途中で呼吸停止。懸命な心肺蘇生が行われたものの、16時11分に患者は死亡した。

連載の紹介

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