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第35回日本血栓止血学会
脳卒中が被災地で増加することを看過できない
政権が代わっても対策はいまだ実行されず

岩手医科大学学長の小川彰氏

 発災後2年が経過したにも関わらず、被災者の高血圧状態は改善の兆しが見えていない。懸念された脳卒中発症の増加は現実化している。われわれは、脳卒中が被災地で増加することを看過できない――。第35回日本血栓止血学会の大震災特別企画「大震災後における血栓症の慢性期医療と次への備え」に登壇した岩手医科大学学長の小川彰氏は、被災者の窮状を訴え、政府に対して速やかな対策を実行するよう強く求めた。

 小川氏は「そもそも東日本大震災という命名が間違っている」と切り出した。2013年2月20日現在、死者・行方不明者は1万8574人。死者約1万5000人の死因の9割は溺死だった。「地震災害ではなく津波被害が主だったことは明白。津波を入れなかったことに、現場を見ない、現場の意見を吸い上げない、現場からはるかに遠い東京で(現場から)ずれた決定を押し付ける政府の姿勢がよく現れている」。小川氏が理事長を務める日本脳卒中学会は、「東日本大震災津波」と津波を強く意識した名称を使っている。被災地の現実をより正確に把握したいとの思いがその根底にある。

 被災地あるいは被災者の現状はどうなのか――。

 小川氏は岩手県の医療再生への道を提示した。これは、第一段階のDMAT活動、第二段階の避難所巡回(医療支援チーム活動)を初期対応、第三段階の仮設診療所整備を中長期対応と区切り、その後の第四段階の基幹病院整備(病診大学連携)、第五段階の町の再生(新生)に応じた岩手県全県の医療体制整備へとつながっていくロードマップとなっている。大震災から2年が経った今、小川氏は、ようやく仮設診療所の整備が整った段階に入ったとの認識を示した。

 一方の被災者の健康をめぐる問題については、「仮設住宅に移ったから問題が解決したわけではない」と強調した。具体的には、長期間に及ぶと予想される仮設住宅での居住者には、(1)孤独状態の増悪が見られ、心のケアが必要とされている、(2)診療所離れが見られ、医療から遠ざかっている、(3)周辺の砂利道を歩けない高齢者がいる、(4)高齢者には移動する手段として車などの手立てがない、などの問題があるとした。対策として、「市町村は特に高齢者が病院や診療所へ通うための移動手段を直ちに確保すべき」(小川氏)と訴えた。

 小川氏はまた、東北大学公衆衛生学教授の辻一郎氏らの研究成果を紹介。仮設住宅の居住者を対象に長距離を歩くことができるのかを調べた結果、冬を1つ越すごとに長距離を歩くことができなくなる被災者が増えている実態が明らかになったとし、対策が急務であると重ねて強調した。

 こうした生活環境の悪化は、小川氏らが懸念していた健康問題として、すでに現れている。

 岩手医科大学神経内科・老年科教授の寺山靖夫氏らの研究では、被災者の平均血圧は震災1年後も142.6/81.6mmHgと高い状態が続き、震災2年後には154.7/93.2mmHgとさらに上昇していることが分かった。また、山田町、大槌町、陸前高田市にある病院や診療所の医師を対象に、脳卒中を発症した患者数について聞き取り調査を行ったところ、脳卒中を発症した患者は2011年4月~2012年3月に3市町合計で11人(月平均0.9人)だったのに対して、2012年4月~2013年1月には52人(同5.2人)と、震災1年後までに比べて、1年後から2年後まででは、月平均患者数が5倍以上に増加していたことが明らかになった(参考記事)。

 被災地の生活・健康環境悪化の影響が出始めていることが明らかになったことから、小川氏が理事長を務める日本脳卒中学会は2013年3月に、安倍晋三総理大臣宛に「日本脳卒中学会声明」として要望書を提出した(表1)。

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