
1990年岐阜大医学部卒、95~97年UCLA留学。97年から国立病院機構東京医療センター。総合内科で外来担当、国立病院機構本部医療部研究課臨床研究推進室長も兼務。
内科医として患者さんと接していく中で、一番いろいろ考え、気付かされるのは、慢性疾患と終末期医療の患者さんだろう。
前者の中で、特に印象に残っているのは2人の糖尿病の患者さんだ。一人は50歳代半ばの男性で、定期的に通院してくるのだが、極めてコントロールが悪く、タバコも吸っていた。診察のたびに「糖尿病は放っておくと大変なことになります」と忠告した。1990年代後半のことだが、病気のネガティブな面、患者に不利益になる面を伝えて患者の行動変容を促すのが一般的なやり方だったと思う。
けれど患者さんは、ヘラヘラして「いやあ」と答えるだけで、教育入院を勧めても断られた。そのときは「いつまでもたっても、だめだなあ」と私は受け止めていたのだった。
ところが、ある日を境に突然コントロールが良くなった。タバコもやめた。それまで口酸っぱく指導していた甲斐(かい)があったと思いながら、「あ、良くなりましたね。その調子でがんばってください」と話したのだった。
その後もコントロールが良好な状態が続いたため、あるとき、「何かありましたか」と尋ねた。すると、「実は、おやじが倒れ、俺が世話をしなくてはならなくてね。私は自由人として生きてきて、これまでおやじには迷惑をかけたし。私が倒れるわけにはいかないんです」との答えが返ってきた。