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《第5回》
耳の痛みが現われた気うつの症例
クリニカルノート #1

2008/09/15
淺羽 宏一

 本連載では折に触れ、漢方を処方したアップ・ツー・デートな症例を「クリニカルノート」として呈示します。

 連載第3回「喉のつかえ」で、「気うつ」の患者さんに対して半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)柴朴湯(さいぼくとう)で治療したことを示しました。今回も「気うつ」の患者さんですが、訴える症状が異なる患者さんが来院されましたのでご報告します。

 患者さんは神経質そうで痩せた35歳の女性。5歳の女の子と夫の3人で暮らしています。主訴は両側の耳の痛みです。家族歴・既往歴に特記すべきことはありません。現病歴ですが、3カ月前から徐々に両耳が詰まる感じが出現し、1カ月前から耳が痛くなりました。

 はじめは市販の痛み止めを飲んでいましたが、改善しないために近医の耳鼻科を受診。検査にて異常が認められず、痛み止めが処方されました。

 しかし、全く改善がみられないため、当院脳神経外科を受診。頭部MRI検査などにて異常を認めなかったため、当院精神科に紹介されました。エチゾラム(商品名:デパス)3錠が処方されましたが、体がだるくなるばかりで耳の症状が改善しないため、漢方治療目的に当科へ紹介されました。

 今回は、当初から漢方治療目的ですので、早速、漢方的な問診と診察を行いました。なお、身体診察・血液検査には異常ありませんでした。

漢方的な問診:家計を助ける目的で、1年前から近くのコンビニエンスストアでパートを始めました。店長に仕事ぶりを認められ、徐々に仕事量が増えていった5カ月前ころから耳鳴りが始まりました。このお店は四国でもトップクラスの売り上げがあり、やりがいがあったため、気にせずに仕事を続けました。
 冷蔵庫の在庫管理などを任されるようになり、かなり忙しくなった3カ月ほど前からは、耳が詰まる感じが出現しました。しかし、アルバイトの同僚が高校生なので、疲れていても仕事を任せることができず、責任感が強いこともあって気を抜くことができませんでした。
 1カ月前ころからは耳が痛くなってきました。痛みのために仕事がきつく感じるようになったので、店長に休みをもらおうと思いましたが、気兼ねして言い出せませんでした。同じころ、子どもが通っている保育園の夏祭りの準備が始まりました。世話役をしていた関係でそちらも忙しくなり、気を使うことが多くなったためか、症状はますますひどくなりました。

漢方的な診察:顔貌は抑うつ状(気うつ)。脈に元気がない(気虚)。お腹は季肋部の筋肉が緊張している(胸脇苦満)。
 ストレスがたまると季肋部の筋肉が緊張してきます。一種の腹壁反射だと思われますが、漢方では「胸脇苦満」といってストレスの有無の指標とします。このサインがある場合、「気うつ」の患者さんに対しては、半夏厚朴湯ではなく柴朴湯を用います。

著者プロフィール

浅羽 宏一(高知大学医学部附属病院総合診療部)●あさば こういち氏。1992年高知医科大学(現高知大学)卒。同年同大学第二内科入局。04年高知県立安芸病院内科医長を経て、06年4月から現職。

連載の紹介

【臨床講座】日常診療に漢方を使う
日常診療でよくみかける不定愁訴に対し、漢方が最適な選択肢であることがしばしばあります。高知大学附属病院総合診療科の診療方針を基に、プライマリケアの現場で役立つポイントを紹介します。

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