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連載◎癌治療の最前線から
なぜ進行癌患者や家族とトラブルになるのか
患者や家族の理解に向けたシステムの整備を

2016/10/07
大阪大学大学院医学系研究科先進癌薬物療法開発学寄附講座教授 佐藤 太郎 氏

 私の外来には、他の病院で「あなたはあと半年だ」と言われ、体の震えが止まらなくてやってきたという患者さんが後を絶ちません。もう少し、患者に良い説明やサポートの仕方ができたのではないかということをよく感じます。

 最近の進行癌に対する治療法の開発は、予後の大きな改善につながってきました。大腸癌の生存期間は診断後約半年であったのが3年から5年となり、胃癌も3カ月、4カ月と言っていたのが1年半、2年となってきています。予後が悪い代名詞とされる膵臓癌でさえ、1年から1年半と言えるようになってきました。

 その一方で、医師の患者への寄り添い方が難しくなってきたと日々感じています。つまり、患者や家族への悪い情報の伝え方が難しくなり、しっかりと伝わらなかった結果、患者や家族に不満が残ったまま治療を終了するという事態が起きていると考えています。

入院で病気についての学びができた20年前

 約20年前には、医師と患者、患者の家族の間には、いわゆる以心伝心のようなものがありました。きついことを言わなくても察してくれるということがありました。

 例えば、ステージ4の癌と診断すればずっと入院とし、時々外泊を許可するという医療が許されていました。この入院を中心とした医療は、告知をされておらず自分は元気だと思っている患者が家に帰れない、あるいは稀にしか起こらない副作用のために病院に縛り付けられるという問題はありましたが、患者や家族が病状を緩やかに理解することや、いずれ亡くなるということを受け止める余裕を与えていたように思います。

 つまり、患者はすぐ側にいる末期の癌ではないかと思われる人の様子を見ながら、自分もいずれはこうなっていくのではないかと認識していきました。家族も見舞いに来ることで他の患者の様子を見て、入院している自分の身内についても同じようになっていくと感じ、病気の厳しさやしんどさを肌で感じられるような医療が可能でした。医療者がつらいことを言わなくても済む医療が許されていたのです。「先生におまかせします」という言葉が患者や患者の家族から聞かれたのも、この背景があったためだと思います。

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